鹿島アントラーズが「常勝復活」に向け、歩みを進めている。昨季はタイトルを知るFW鈴木優磨(26)が復帰。今季はDF昌子源(30)、植田直通(28)が帰ってきた。

鹿島がタイトルを取っていた時代、記者は別クラブを担当していたが、臨時担当として練習を見たことがあった。これまでの担当クラブでは見たことのない強度の高さとバチバチ感に驚いた記憶がある。若手も先輩の壁を越えようと、練習からギラギラして、常勝鹿島の由縁はそこにあるんだと感じたものだ。

2月25日の第2節。鹿島はホームで川崎フロンターレと対戦した。川崎Fに対し、16年から直近14試合で4分け10敗。7年勝てていない相手だ。その相手に前半5分、鈴木のクロスからFW知念慶がヘディングでネットを揺らし先制。後半も鈴木と知念が前線から激しくプレスをかけ、カウンターで好機をつくった。後半38分には川崎Fに退場者が出て、歴史的勝利が目前になった。

だが、鹿島は知念と鈴木がベンチに下がってから強度が明らかに落ちた。途中出場の若手選手も不完全燃焼に終わり、小さなミスもあり逆転を許した。鹿島イレブンにとって悔しさが募る敗戦。だが、試合後、鈴木は主将としてしっかり取材エリアで対応し、こう強調した。

「ミスをしないと学べないが、それを次にどう生かせるか。僕らはそう学んできて、チャンスもらった時、絶対に同じことをしたくないという気持ちで練習をやってきた。自分も植田君も、ミスして負けて、マーク外して負けて…。ここまで来られたのは、絶対に(ミスを)無駄にしたくないという気持ちで練習していたから。今は良くも悪くも切り替えが強調されるけど、そこだけの強調は良くない。そのミスを重く感じて、次(チャンスが)来たときにどうするか。自分も含めてもっと必要だと思う」

この言葉を聞いて、アントラーズの根幹を見た気がした。常勝を支えた鈴木も昌子も植田も、新人時代から酸いも甘いも経験し、強くなっていったのだ。先輩の背中を本気で追い越すつもりで追い、定位置をつかみ、海外へと羽ばたいた。

鹿島鈴木優麿(2023年3月12日)
鹿島鈴木優麿(2023年3月12日)

3月12日のアビスパ福岡戦では、数的不利の中、川崎F戦で途中出場し、結果を出せなかったFW垣田、MF松村がピッチに立った。前線からの強度の高いプレスはもちろん、垣田は前線で起点となり、松村は持ち味のスピードでエリア内で仕掛けた。松村は3月8日のルヴァン杯・柏レイソル戦でも先発し1得点を挙げており、ミスを糧に一回りたくましくなったように思えた。

福岡戦では戦列を離れていたDF昌子が先発復帰し、昌子も「今日に関しては交代選手が違いを見せてくれた。マツ(松村)、垣田の試合の入りが素晴らしかった」と2人をたたえた。

昌子はさらに、鈴木が川崎F戦後に発したコメントにも触れ「僕もナオ(植田)も散々、やられてきましたから。軽々いなされたことも多々あった。トライアンドエラーがあってこそ、今がある」と鈴木と同じ“鹿島魂”を口にし「若手は切り札になるのではなく、これをきっかけに先発をギラギラと狙ってほしい」と言い切った。

鹿島植田直通(2023年2月25日)
鹿島植田直通(2023年2月25日)
鹿島昌子源(2023年3月12日)
鹿島昌子源(2023年3月12日)

強い鹿島を知る3人が戻ったからこそ、若手がミスに落ち込むのではなく「次は絶対同じことをしない」という強い意志で練習に取り組み、福岡戦ではその気概を見せた。若手にとって、技術、フィジカルを含め鈴木、昌子、植田の背中はまだ遠いだろう。

「常勝鹿島」は一朝一夕に再構築できるものではないが、鹿島魂を持つ先輩を相手に、若手がミスを糧にギラギラと挑んでいくことで、常勝鹿島の土台ができていく気がしてならない。【岩田千代巳】