湘南ベルマーレの曹貴裁監督(48)は28日、東京・味の素スタジアムで行われた東京ヴェルディ対アビスパ福岡戦を視察し、福岡が0-0で引き分け、1年でのJ1復帰が決まったことを受けて囲み取材に応じた。曹監督は「毎年、毎年、選手が変わる中、一丸となって努力してくれた。彼らを心から誇りに思います」と選手をたたえた。

 Jリーグが始まった93年以降、1部への昇格は全てアウェーで決めてきた。93年にJリーグ入りを決めた時は静岡県磐田市、曹監督がコーチ時代の09年は茨城県水戸市、監督就任初年度の12年は東京都町田市、J2最多の勝ち点101を挙げて史上最速の昇格を決めた14年は京都市だったが、この日は自分たちの試合がない日に東京・調布市で昇格が決まった。11月5日にアウェーで対戦する福岡のスカウティングのために足を運んでおり、「自分たちの試合がない時に決まる予想も、全くしていなかった」と率直な思いを語った。

 昇格と降格を繰り返す中で例年、選手を引き抜かれてきた。今季も下部組織からの生え抜きのMF菊池大介が浦和レッズ、DF三竿雄斗が鹿島アントラーズと、主力選手が相次いで流出。14年の昇格を経験した当時の登録メンバーで今季、残っているのはMF菊地俊介(26)、FC東京から2年ぶりに復帰したGK秋元陽太(30)、MF藤田征也(30)、DF島村毅(32)ら数名しかおらず、曹監督は 開幕直後から「0からのスタート」を強調し続けてきた。

 その中、曹監督が監督就任初年度の12年にともに昇格を経験し、J2に降格した16年の捲土(けんど)重来を誓い、2年連続で主将を務めたFW高山薫(29)が、3月25日のジェフユナイテッド千葉戦で右ひざを故障。前十字靱帯(じんたい)を損傷で全治8カ月の重傷を負い、開幕からわずか5試合で戦線を離脱し、チームに激震が走った。さらに高山から主将の任を受けた菊地も、5月27日のモンテディオ山形戦後、右太ももの違和感から戦列を離れ、9月30後のツエーゲン金沢戦で復帰するまで4カ月もかかった。

 湘南は曹貴裁というカリスマ性の高い監督に率いられ、縦に速く、連動性が高く、相手に走力で上回り局面で勝つ攻撃サッカー“湘南スタイル”を築き上げてきた。一方でJ2への降格が決まった16年は、曹監督の指示、指導、発言、アイデアに選手が頼ることも少なくなかった。

 今季も選手の間から時折、そうした顔が垣間見られる瞬間があった。4月15日のFC岐阜戦に3-3で引き分けた後、菊地、秋元、DF石原広教、杉岡大暉、MF石川俊輝、斉藤未月が、曹監督に会見後にピッチに呼ばれ“青空反省会”を行った。曹監督は「自立が、まだまだ甘い」と選手に要求した。ホーム初の連敗を喫した5月27日のモンテディオ山形戦(0-1敗戦)後には菊地、秋元、高山、藤田を試合後に呼び、スタジアム内の1室で緊急会談を行った。曹監督は、「自分が出来ないから周りに要求できない。(選手の)自立…僕のせいだと思うけれど、まだまだ甘い。お人よし…くだらない善人ぶりをやめてほしい」とまで言った。

 昇格までの道のりは決して、楽ではなかった。曹監督は、苦しかった時期を聞かれると「最初からですね。苦しいというか…何か出来上がりつつあるものが、いきなり頭と足だけ残って、真ん中だけ切られたみたいな気持ちでやっていることが多かった。土台を作るには、土台を作って上につなげていく作業は、どこから手を付けようかなと正直、悩んだしいまだに明確な答えがあるわけじゃない。もう1回、このチームを最初から率いろと言われたら本当に無理だなと思うくらいエネルギーは使い果たした」と振り返った。

 昇格の大きな要因として、新たな選手たちがコンセプトを理解したことを挙げた。

 曹監督 高山がケガをして長くいなくなったり、俊介がいなくなった中でも、みんなで苦悩して考えて1つの答えを導き出したような気がした。14年の登録メンバーは4、5人しか残っていない中でも、新しい選手がチームコンセプトをしっかり理解してやってくれたことで言うと、思考した分だけ非常にうれしく感じる昇格だったと思います。選手の声もよく聞きましたし、逆に選手に厳しいことはたくさん言いました。

 来季について聞かれると「来年のことは全く考えていなかった。この10年で4回、J1昇格したのは湘南だけだと思うので、絶対に学んだことを生かさなければいけない年。学んだことが机上の空論にならないように、良い意味で死にものぐるいで戦わなければいけないんだな、という気持ちでいます」と語った。

 29日のファジアーノ岡山戦に引き分け以上で、14年以来2度目のJ2優勝が決まる。曹監督は「明日、勝てば我々のJ2チャンピオンも決まる日なんで、これから決めるメンバーの半分が風邪をひいて出られないかも知れないですし、明日、そろったメンバーで最高のパフォーマンスをするのがプロとして大事なことだと思うし、そこを期待して皆さんに見に来てもらえると思う」と必勝を誓った。【村上幸将】