今年からセレッソ大阪の寮母に就任した「カリスマスポーツ料理研究家」村野明子さんが、日刊スポーツのインタビューに応じた。スペイン人のロティーナ新監督(61)の下で新たなサッカーに取り組むC大阪だが、村野さんは「食」から変革をもたらす。

村野さんのJリーグとの関わりは北海道コンサドーレ札幌からスタートし、昨季までヴィッセル神戸の選手寮(三木谷ハウス)の寮母を務め、C大阪が3クラブ目となる。

「今までやってきたことで、役に立つことは増えてきている。それはセレッソでやりたいことに、ずっぽし当てはまります」。C大阪は「育成型クラブ」を掲げる。その理念に沿った“大物”補強となった。

東京で生まれ育ち、結婚するまで実家暮らしで料理どころか、米をとぐことすらなかった。高校を卒業後は、大手化粧品会社の販売員。スポーツ、料理とは無縁の世界から、現在はC大阪寮長の村野晋(すすむ)氏との結婚を機に人生が変わった。

札幌時代は当初、寮もなく自宅で料理し、選手が訪れるスタイルだった。それまで食事を選手の自由に任せていた時は、繁華街に出かけて起こるトラブルもあったという。「体を休めなければいけない時間に生活が乱れますから」。クラブ側も食の大切さを理解し、寮を作った。

村野さんの料理学はすべて独学。「ひと目見て『うまそう』と言ってくれたらうれしい。すべて食べきって『おいしかった』と言ってくれることに幸せを感じる」。偏らず、食べきるためにどうするか。編み出したのがワンプレートだ。

1つの皿にバランスよく、そして彩りを重視する。「カラフルな方が楽しいし、食べたい気持ちになる。私は5色を基本にしています」。赤=タンパク質、黄=炭水化物、緑=ビタミン、白=カルシウム、黒=鉄分。彩りの豊かさは、栄養のバランスにつながる。

また、ワンプレートのメリットは食べ残しのチェックもある。何を残したかは一目瞭然。その場合は、選手に聞く。ある場合、「自分は太りやすいから」と返ってきた。その選手には例えば、とりのもも肉を胸肉に変える。そんな細やかな配慮が、若い選手の体を育てる。

村野さんはプロ野球選手との交流も多い。エンゼルスの“二刀流”大谷翔平とは大リーグ移籍前から。「朝食で卵は簡単にタンパク質を取れる」とオムレツを伝授した。他にも西武の内海哲也投手、巨人の田口麗斗投手らから自主トレ期間中、約1カ月の食事担当を務めた。「競技は違っても同じアスリート。体脂肪を下げて筋肉量を上げて、ケガをしにくい体作り。共通することは多い」と話す。

神戸では試合前、トップチームの選手が三木谷ハウスで昼食を取る。MFアンドレス・イニエスタは、意外にも焼き芋が好物。村野さんが手軽に食べられるものと提供してはまったという。ルーカス・ポドルスキが好む味付けはシンプルに塩とこしょうのみ。そして肉はしっかり焼いて。それぞれに個性があっておもしろい。そして、そこから学ぶことも少なくない。

C大阪からのオファーがある前、自身の飲食店を開くプランもあったという。しかし「選手はみんなかわいい」という寮母としてのおもしろさ、そして寮母として培ってきた経験、知識を広めるために「新たなチャレンジを」と今回の依頼を受けた。

活動の幅を広げるため、2月に「SundayMonday」という会社をたち上げた。社名の由来は明子の明を分解した「日」と「月」から。講演依頼などの仕事を受ける。「若いスポーツ選手にとって、寮母さんは大事な存在だと思うんです。やってやろうという人が増えていけば」。

食も未来のスーパースターを生む一因となる。C大阪にも未来の日本サッカーを担える原石がゴロゴロいる。村野さんの新たな挑戦は、その手助けとなる。【実藤健一】