携帯電話にメール、SNSなど、いわゆる「コミュニケーション・ツール」が発展し、これで人間同士のつながりは本当に強まったといえるでしょうか? 親子の会話は充実しましたか? 日曜日の「ニッカンジュニア」はサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が、自身の経験から人の育て方を語ります。今回は同氏がシニア・ディレクターを務めるアイスホッケーの栃木日光アイスバックスでのエピソードも紹介します。
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京都への修学旅行の話。ある学校では新幹線で京都まで行き、駅から3人ずつタクシーに乗って観光、決められた時間に集合場所まで送ってもらうという旅程もあると、聞いたことがあります。「これって、先生が楽をしたいだけなのかな?」と、うがった見方をしてしまいます。
僕は、せっかくなら各駅停車で京都観光をさせたらいいと思う。各駅停車だといろんな人が乗り降りして、人とのふれあいがありますから、それもいい経験、いい勉強になると思うのです。でも、そういう旅に耐えられない生徒もいるでしょうね。
今は他人と接する必要が少なくなりましたからね。対話どころか、電話も避けて、メールで済ませることもできる。ネット通販での買い物なら、店員さんとのやりとり、駆け引きはない。社会人でも「今の若手は飲み会に来ない」という声があります。「1人焼き肉」や「1人カラオケ」の店も繁盛している。他人とつき合うのを面倒くさがっているみたいです。
そういう人は社会に出たら損をする、と僕は感じています。まだ、現時点ではコミュニケーション能力が高い方が得るものが大きいという傾向があります。やはり人間はどこかで人を求めますから。
僕がシニア・ディレクターを務めるアイスホッケーの栃木日光アイスバックスでは、選手との契約時に地域、ファン、スポンサー、メディアへの協力を条件に盛り込みます。「お世話した方が、お世話をしてくれる」「みんな好きな人を応援する。嫌いな人を助ける人はいない」と教育します。ファンサービスも関係者へのあいさつ回りも、全員に経験させ、慣れさせる。オフも忙しいですよ。
そんな中で、最初は口べただった選手が定期的に地元メディアに出ることで、トーク力=コミュニケーション能力が磨かれて、自らスポンサーを獲得してくるまでになったこともありました。
限られた選手寿命の中で人脈をつくり、自らを売り込む営業力を身につけ、セカンドキャリアの礎を築くのです。実際に現在のクラブには選手出身のOB5人がフロントにいます。この評判は選手間の口コミで伝わり、試合の際に対戦相手の選手が「いつお世話になるかわかりませんから」とあいさつに来るほどのこともありました。
もちろん人が集まれば、時には“衝突”も起こる。チーム内に兄弟選手がいて、あるとき意見の相違から熱くなって、練習後にケンカになったことがありました。その後すぐに「もう解決しました」と、すっきりした顔で言っていたので不問となった。僕は5人きょうだいの末っ子で、子供時代には「きょうだいゲンカ」もあったけど、いつも親の手を煩わせる前に、5人の中でかばったり、諭したりして収めていた。当時の「きょうだいゲンカ」は子供の間で解決する“内輪もめ”だったんです。
チーム内でケンカした2人はたまたま本当の兄弟だったけど、クラブが1つのファミリーで、選手同士が兄弟のような関係なら、互いに意見をぶつけ合う“内輪もめ”には目をつぶってもいいかと思います。
一方で、飲酒運転など法に触れることはもちろん、酔って暴れるなど外部に迷惑をかける行為には「即解雇」という厳しいルールを敷いています。他のスポーツでは出場停止や罰金などの処分でチームに残す例もあったけど、うちは解雇と決めている。選手には「社会人のお手本」であるよう求めているし、仲間やファンを裏切る行為は許されません。その厳しさを押しつけるのではなく、理解させることが大事でしょう。どう伝えるかもコミュニケーション能力の1つ。上司と部下の関係と、親と子の関係も似ていますね。
◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で18歳で同国名門コリンチャンスとプロ契約。ブラジル代表候補にもなった。72年に来日。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から過去に「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。



