令和の泣き虫先生(コーチ)なのかもしれない。徳島ヴォルティスの甲本偉嗣(こうもと・たけし)ヘッドコーチ(41)が、感極まった。

14日のセレッソ大阪とのJ1リーグ戦。アウェー戦ながら最後に競り勝ち、試合後のDAZN(ダゾーン)のインタビューでは90分間の感想を聞かれ、言葉を詰まらせながら答えた。

「まずは…最高の妻と最高の子どもたち、娘たちと尊敬する父、それから母と、その支えがあってここまでいいチャレンジができた」

Jリーグの勝利者インタビューで、家族のことが冒頭に出るのは少し異例かもしれないが、甲本ヘッドの純粋な胸の内が伝わってきた。

その次に、前迫雅人コーチらスタッフの名前を次々に挙げ、クラブの関係者への感謝の思いを告げた。そして最大の思いは選手に向いた。

「力のない、僕が未熟な中で、選手たちが自分たちの力を振り絞ってやってくれた。一番の感謝を送りたい」

この日は、開幕から代行指揮を執った甲本ヘッドの最後の試合だった。新型コロナウイルスの影響で外国人の入国が制限され、ダニエル・ポヤトス新監督が来日したのは、開幕から1カ月以上が過ぎた3月30日。2週間の自主隔離が完了するため、15日の練習からスペイン人監督が合流することが決まっていた。

甲本ヘッドは、J1昇格1年目で大苦戦が予想された徳島を開幕から4勝2分け4敗で勝ち点14、20チーム中9位でバトンを渡すことになった。監督経験のない自分を支えてくれた仲間たちの顔が、どんどん浮かんだのだろう。

現役時代は社会人リーグでプレーし、Jリーガーの経験がない甲本ヘッドは、11年に徳島のコーチに就任した。前回J1だった14年は年間わずか3勝、1年でJ2に戻った。あの時も現場におり、クラブの苦い歴史を見てきた。2度目のJ1となった今回、開幕10試合で7年前の数字を更新する4勝目を挙げた。徳島の期待を背負った男が、見事な結果を残した。

前節浦和レッズ戦の試合後も泣いていた。昨季まで4年間師弟関係を結んでいたロドリゲス監督が、今季から浦和の監督に就任。0-1で敗れたが、師からねぎらいの言葉をかけられ、思わず泣いてしまった。「自分に対して残念」というコメントは、ピュアなものだった。

甲本ヘッドは今回、近い将来に監督になるためのプライスレスな経験を積んだ。そして、15日から新監督の真横に立ち、その哲学や指導方法を真横で学べる。

このC大阪戦で最後に決勝点となるオウンゴールを誘発した、殊勲のMF岸本は言った。

「甲本さんはプレッシャーもあったと思うし、休む時間もなく、根を詰めている時もあったと思うが、僕たちのことを考えてくれていた。僕たちもしっかりついていき、チーム一丸となれたと思う」

新監督不在という困難を乗り越えた徳島が、ひと回り強く、魅力的なチームになった。【横田和幸】