青森山田で大爆発したアタッカーが、新天地でもブレークしている。第100回全国高校サッカー選手権(東京・国立競技場ほか)が28日に開幕する。前回大会得点王の早大MF安斎颯馬(1年)は、関東大学リーグ1部で22試合中19試合(先発11、途中8)に出場し、6ゴール2アシストで新人賞を受賞。特に、後半戦11試合で5ゴールを量産した。2大会連続準優勝の母校は、31日に大社(島根)と初戦。「絶対に優勝できます」と18年度以来の頂点に期待を寄せる。【取材・構成=山田愛斗】

   ◇   ◇   ◇

悔し涙を糧に充実の大学1年目を過ごしている。安斎は昨年度の全国選手権で、“常勝軍団”青森山田の一員として主役級の活躍を見せ、高校トップ選手の地位を確立した。今春進学した早大ではリーグ戦でチーム1位の6ゴールを挙げ、新人賞も受賞。鮮烈デビューを飾り、すでに欠かせない戦力になりつつある。

「個人としてはずっとスタメンで出られたわけではないですが、コンスタントに1年間戦えて得たもの、つかめたものが大きかったシーズンだった。大きな野心を抱きながらの1年目。試合に出られるか分からない不安もあった中、結果的に得点も取れて、新人賞も受賞できて良かったです」

大学リーグは、高校時代からJリーグクラブの下部組織や高体連(部活)の強豪校で活躍した選手が多く、そのレベルの高さに驚かされた。

「大学サッカーは個の能力が高校とは比べものにならないぐらい差があり、プロ内定者とかプロで即戦力になるような相手との戦いばかり。その中で前への推進力やドリブル、最後に決めきる決定力とか自分のストロング(ポイント)を発揮することに関しては、自信を持ってやれたかなと思います」

早大で成し遂げたいことはひとつだ。

「本当に日本一というのは、自分の中で近いようで本当に遠くて、まだ1回も達成できていない。大学で日本一というのは達成したいというか、達成しなくてはならないことだと思うので、そこの目標だけはぶれずにやっていきたいです」

中学時代は東京U-15深川に所属し、中学3年時の17年には背番号「10」を背負った。高円宮杯全日本ユースサッカー選手権で準優勝などの実績を残したが、上のカテゴリーの東京U-18には昇格ができない挫折を味わった。「小、中学校でけっこう甘えていた部分があり、親元を離れて青森の厳しい環境で、サッカーのスキルも人としても成長したいと思い、青森山田に進学しました」。東北の名門では2年時から頭角を現し、攻撃で違いを作った。

昨年度の全国選手権は、決勝の山梨学院戦で勝ち越しゴールを決めたが、同点に追いつかれ、PK戦の末に敗れた。PK戦は2人目のキッカーとして失敗。準決勝の矢板中央(栃木)戦のハットトリックを含む5得点で大会得点王に輝き、その実力は十分に示したが涙は止まらなかった。

「準優勝は自分が戦う野心を持つにあたっての原点です。あの悔しさは今でも忘れないし、今後も忘れることはないと思います。この時期に『選手権』というキーワードを聞くと、自分のPK失敗は嫌でも思い出しますが、逆にエネルギーに変えて、ネガティブに捉えず自分の頑張る源というか、起爆剤になればいいと今では考えています」

高校で同期のDF藤原優大(19)がJ1浦和、DFタビナス・ポール・ビスマルク(19)がJ3岩手に入団。1学年後輩のMF松木玖生(くりゅう)がJ1東京、MF宇野禅斗(ともに3年)がJ2町田に来季加入内定するなど、身近な存在が続々プロ入り。「今でも高卒でプロに行きたかった気持ちはもちろんあります。ただ、大学に行って全く後悔していないし、充実したサッカー人生が送れています」と胸を張る。

ベルギー1部サンジロワーズ三笘薫(24)、川崎F旗手怜央(24)らの名前を挙げ「Jリーグで即戦力としてプレーする選手たちが戦ったリーグにいるのはポジティブに捉えています。大学サッカーでもまれて、プロで1年目から活躍できるようにと常に思っています」。今後の青写真を描きレベルアップを続ける。

昨年度の青森山田は、安斎、松木がダブルエースを務めた。遠征時はポジションが同じ選手が基本的に同部屋で、安斎が2年、松木が1年の時に同部屋の場合が多かった。一緒に過ごす時間も長かったこともあり、「(松木は)1年生のころから敬語なんてなかったです」と笑う。

「(松木)玖生は会話しなくても、プレーで『ここにいるでしょ』とか分かり合っているのが当然な関係でした。お互いがお互いを刺激し合い、ライバルであり、最高の仲間だし、相手ではなく味方なのが頼もしかったし、自分にとってプラスでしかなかったです」

今季の青森山田は全国高校総体とプレミアリーグEASTの「2冠」を達成した。

「本当に玖生の代は3冠を狙える位置にいます。山田は練習も試合も、楽しいより苦しいことの方が多いですが、積み上げてきたものは他校と比べものにならないし、変に気負いすぎず、今までやってきたことを発揮すれば何も問題ないと思います。自分たちの力を信じて頑張ってほしいですし、絶対に優勝できます」

来年1月10日、後輩たちの悲願達成の瞬間は、国立競技場のスタンドで見届けるつもりだ。