第103回を迎えた今年の天皇杯は、2日に4回戦8試合が各地で開催される。残ったベスト16のうち、唯一のアマチュアがJFL所属の高知ユナイテッドSC。G大阪、横浜FCとJ1勢を連破し、今度は川崎Fから三たびのジャイアントキリングを狙う。ユニホームの胸スポンサーもない地方クラブにとって、天皇杯はPR活動の側面もある大舞台。ホーム高知・春野陸上競技場での決戦を前に、クラブの意気込みに迫った。

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2013年8月12日、高知県四万十市江川崎では、当時の国内最高気温となる41度をマーク(現在歴代3位)し、全国ニュースになった。あれから10年、今夏の高知県はサッカーの話題で熱気があふれている。

四国4県で唯一Jクラブがない。J1から数えれば3つ下のカテゴリー、JFLに所属する高知ユナイテッドが、天皇杯で快進撃を続けている。

1回戦はベルガロッソいわみ(中国リーグ)に延長戦の末の辛勝だったが、2回戦はG大阪に2-1、3回戦は横浜FCに1-0とJ1勢を連破。前線からの激しいプレス、球際の強さでも互角以上で、正確なカウンターを武器に番狂わせを演じた。

特に3回戦の横浜FC戦はホームで開催され、観衆3041人を数えた。通常のJFLでは1000人未満の動員だった。

「試合終盤の失点危機の場面になると、観客が自然発生的に『しっかり守れ』『頑張れ』と声援してくれた。JFL昇格が決まった19年に匹敵する、感動的な試合になりました」

こう振り返る西村昭宏ゼネラルマネジャー(GM、64)は、C大阪監督時代の01年度、天皇杯で準優勝に導いた。その人物でさえ、人口約32万人の高知市に宿った熱気に感動したという。

2日の4回戦は17、18、20、21年のJ1王者川崎Fと、再び本拠地で試合ができる。ボールを保持して主導権を譲らない川崎Fは今季ここまで7位だが、その知名度は随一。自軍の攻守に鋭いプレーが、どこまで通用するかが焦点になる。

チケットの売れ行きは好調だ。高知県サッカー協会によると、先週末時点で約4000枚が売れ、当日は約6000人の来場を予想する。

この動員規模は16年9月22日、同じ春野陸で開催された天皇杯3回戦・横浜-東京Vの5733人以来のこと。当時は中村俊輔や中沢佑二がいた横浜が、4-0で完勝した。

今回は地元の高知ユナイテッドが、Jリーグ屈指の強豪と対戦するという希少価値と、三たびのジャイアントキリングを懸けて臨むという話題性がある。JFLでは894人が今季最多動員のクラブにとって、まさに夢のキックオフになる。

クラブの公式ツイッターには「みなさんにお願いがございます」と題し、「8月2日の夜は、予定を入れずに春野にお集まりいただけるとうれしいです」と、さらなる来場を呼びかけている。

「高知から本気でJリーグ!」を合言葉に掲げ、16年に創設され、最短で来季からのJ3昇格(入会)を目指す。

全29選手のうち、期限付き移籍で他クラブから加入した4人を含めれば、プロ契約は計10人。他の選手は午前中に練習を終えると、午後はホームセンターや学童保育関連など、さまざまな勤務先で働くアマチュアだ。

JFLで参入4年目を迎えた今季、ここまで6勝3分け7敗で15チーム中11位だが、J3昇格の可能性がある2位以内へは、残り12試合で勝ち点8差。秋にもJ3クラブライセンスの取得が決まる見込みで、昇格の条件クリアへと前進している。

一方で地方のアマチュアクラブは、財政面では苦戦が続く。年間の運営予算は推定2億円。収入の柱の1つになる、ユニホームの胸スポンサーが不在のまま今季に入った。

「(クラブの方向性に)賛同していただける企業、仲間を広く募っており、今回の天皇杯でアピールになれば」と西村GM。川崎Fとの一戦は、NHK・BS1で生放送される。画面に映し出される選手の奮闘ぶりが、スポンサー獲得の突破口になるかもしれない。

天皇杯は優勝すれば、チーム強化費の名目で1億5000万円、準優勝で5000万円、3位で2000万円が日本協会から贈られる。1試合勝つごとに、次戦への準備金として1回戦突破で50万円、2回戦で100万円、3回戦で200万円が支給され、4回戦から準決勝までは各300万円が入る。

サポーターからの寄付などで遠征費を工面しているクラブにとれば、金銭的にも魅力あふれる舞台だ。

西村GMは「我々が唯一のアマチュアのチーム。何も恐れることはない。選手はもう1回、J1勢、それも川崎Fと我々のホームで試合ができる。モチベーションは相当に高い」という。

93年のJリーグ発足後、Jクラブ以外に天皇杯を掲げたチームはない。クラブ創設8年目の地方クラブにとれば、まだまだ非現実的な目標ではある。

ただ、川崎F戦で3戦連続のジャイアントキリングを成し遂げれば、さらに全国から注目される。クラブの財政を強化できるチャンスがふくらみ、その向こうに見えているJリーグ昇格への自信にもなる。高知の夏は、ユナイテッドが熱い。【横田和幸】

◆高知ユナイテッドSC 16年2月に高知県初のJリーグ昇格を目指して誕生したクラブ。高知市を中心に同県がホームタウン。20年からJFLへ昇格し、14、13、11位と成績を伸ばす。21年12月にはカズ(三浦知良)獲得に動いた。選手はアマチュアとプロの混在で、元Jリーグ広島のMF横竹翔(33)らが在籍。就任2年目の吉本岳史監督(45)は高知・四万十市生まれで、横浜FCなどで主にDFで活躍した。

◆93年度以降の天皇杯優勝 Jクラブ以外が優勝した例はなく、当時Jリーグの1つ下のカテゴリー(J2相当)にあたるJFL所属だったC大阪の94年度準優勝が最高。V川崎、浦和、横浜MのJリーグ勢を3連破し、決勝で0-2と平塚(現湘南)に敗れた。当時のC大阪は翌年度からのJリーグ昇格が決まっており、MF森島寛晃ら事実上のプロ集団だった。現在のJFLは99年から始まった新リーグにあたり、以前のJFLとは環境に大差がある。