【大邱(韓国)30日=佐藤隆志】36歳325日という大会男子最年長記録で金メダルを獲得したハンマー投げの室伏広治(ミズノ)が、父重信氏(65)から世界の鉄人ならぬ「世界の達人」のお墨付きをもらった。優勝から一夜明け、大邱市内での祝勝会に参加。師匠の父から「ハンマーの神髄に近づいた」と、投てき技術は神業の領域とばかりの絶賛を受けた。

 室伏の36歳325日での世界一は、「アジアの鉄人」に衝撃を与えた。決勝では6本中5本が80メートル超えという圧倒的な力を見せつけた。41歳まで競技を続け、物理学の観点からハンマー投げの研究にいそしんだ父にとっても、室伏の投てきは別次元に映った。

 重信氏

 体の使い方が変わってきた。腕に力が入らず、自然な回転運動。私が目指しているのは慣性(遠心力)の中での加速です。それは力が入るとなくなってしまう。私が現役時代、ソビエトの選手は力が抜けた投げ方だった。「こんな動きでそんなに飛んじゃうの?」という感じ。そんな高いレベルの動きが今の広治にある。ハンマーの神髄、そこに近づいてきた。

 自らハンマーを回して投げるのではなく、回転させたハンマーと体を自然な流れで一体化させ、その遠心力で宙へと放つ感覚。選手による外的な力でなく、慣性の力で距離を伸ばす。競技を極めた男の神業だ。今回の優勝で、室伏は追われる立場となった。ライバルたちは躍起になって来年の五輪で巻き返しにくるはず。そんな状況を踏まえ、重信氏はこう予見した。

 重信氏

 広治の優勝で周囲のレベルは上がる。82メートルは出してくる。ただ、今のものをベースにより確実にしていく。83メートルまでいけばほかの選手も及ばない。この年齢で優勝すれば、すごい。我々とレベルが違う。世界の鉄人でしょう。

 父の言葉を伝えると、室伏は「また~っ」と表情を崩した。誰よりも理解ある師匠の賛辞に、喜びもひとしおだ。世界の鉄人ならぬ「世界の達人」襲名へ。ロンドン五輪へ、その進化はとどまりそうにない。