「目標は東京五輪ではなく、北京五輪です」。そう平野海祝(かいしゅう)が言ったのは18年5月、スケートボード・パークの第1回日本選手権の会場でだった。平昌オリンピック(五輪)銀メダルの兄歩夢がスケボー挑戦を表明する前、弟はひと足早くスケボー日本一を決める舞台に立っていた。

8対2の割合でスノボに力を入れていたが、東京五輪でのスケボー実施が決まり、兄同様に「スルーするわけにはいかなかった」のかもしれない。本格的な練習はわずかながら6位に食い込むと「緊張したけれど楽しかった。スケボーも頑張りたい」と前向きだった。

当時「歩夢の弟と言われるのは嫌」と苦笑いで口にしたが、言葉には兄への尊敬があふれていた。「すごいと思う」「とてもかなわない」…。夏も、冬も、歩夢の背中を追いかけて目指した。そして、北京で初めて兄弟五輪出場を決めた。

歩夢にとっても、海祝の存在は大きかったはず。スケボー挑戦は自然の流れとはいえ、国内大会では海祝と一緒に行動していた。弟のはるか前を走っていたスノボと違って、スケボーでは同じ「挑戦者」。4歳下の仲の良い弟は、過酷な挑戦の支えになったはずだ。

スノボのハーフパイプでは、女子の冨田姉妹も出場を決めている。平野兄弟と同じように幼少期から2人で成長してきた。今月8日のW杯では妹のるきが初優勝し、姉のせなが3位で表彰台に並んだ。平野兄弟同様に、冨田姉妹も2人でメダルを目指している。

スノボの2組だけでなく、今大会は兄弟や姉妹の出場が目立つ。平昌大会で初の姉妹金メダリストとなったスピードスケートの高木菜那、美帆は北京でも金メダル候補。カーリングの吉田知那美、夕梨花姉妹も連続メダル獲得を目指す。

スキージャンプの小林兄弟、複合の渡部兄弟、ショートトラックの菊池姉妹、アイスホッケーには床、志賀、山下と3組の姉妹がいる。実に計10組20人。東京五輪は11組23人だったが、日本選手団の選手総数は583人。今回は124人だから、6分の1が兄弟、姉妹ということになる。

東京五輪では柔道の阿部一二三、詩の兄妹が同日金メダルに輝いた。レスリングの川井梨紗子、友香子姉妹も金メダルを獲得した。きょうだいでの同一大会金メダル獲得は、平昌五輪の高木姉妹に続く2例目と3例目。東京では「きょうだい」の活躍が目立った。

新型コロナの影響で行動が制限され、その間に家族の絆は深まった。東京五輪での兄弟、姉妹の活躍は、決して偶然ではないだろう。仲間やコーチとも離れなければならない状況で、兄や姉、妹や弟の存在がどれだけ力になったか。阿部きょうだいや川井姉妹の言葉にも、兄や姉、妹への感謝があふれていた。

北京も同じだ。新型コロナの新株の影響で、どんな大会になるのか見当もつかない。選手の不安は小さくないと思うが、そんな時に頼りになるのが家族。両親らのスタンドからの応援はないが、きょうだいが身近にいれば心強い。力になることは間違いない。

平野兄弟、高木姉妹、小林兄弟、吉田姉妹…、平時とは違う特殊な大会になるからこそ、最も身近で励まし合い、支え合う存在が大切になる。東京五輪に続いて、北京五輪も「きょうだい」の大会になる。新型コロナ禍だからこそ、その絆が大きな力になる。

【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

冬季Xゲーム、スノーボードの女子ハーフパイプで初優勝した冨田せな(共同)
冬季Xゲーム、スノーボードの女子ハーフパイプで初優勝した冨田せな(共同)