好打者の陰にヘルシー食品あり? プロ野球、楽天銀次内野手(27)の秘密を探るべく、育った岩手・普代(ふだい)村に初めて足を踏み入れた。普代村は岩手1、2位の収穫量を誇る昆布が有名で「すき昆布」が特産品。銀次が小学2年まで住んだ岩手・久慈市にも立ち寄り、発見した意外な「地域のチカラ」とは-。

14年5月 地元岩手県営球場での試合で多くのファンの前で打席に立つ楽天銀次
14年5月 地元岩手県営球場での試合で多くのファンの前で打席に立つ楽天銀次

 貧乏くじだ。普代村って仙台から300キロ以上離れている。遠い! でも上司命令には逆らえない。青森・八戸まで東北新幹線に乗り、そこからレンタカーで出発。おっ、「あまちゃん」で有名になった岩手・久慈市が見えてきた。銀次が小学2年まで住んでいた場所だ。「三船十段記念館」の看板が…。過去の「地域のチカラ」でも記念館取材が原稿のヒントになった。足を運ばないわけにはいかない。

三船十段記念館の前にある三船久蔵の銅像
三船十段記念館の前にある三船久蔵の銅像

 三船久蔵。明治時代後半から活躍し、1945年(昭20)に10段に昇段した日本柔道界を代表する人物だ。空気投げ(隅落とし)を完成させたことでも有名だ。同館主査の馬内(まうち)悟さん(34)が突然の来館に対応してくれた。

岩手・久慈市にある三船十段記念館
岩手・久慈市にある三船十段記念館

 馬内さん 普代村に行くんですか。銀次との共通点? 小柄ですかね。パワーを効率的に使っているところも似ているんじゃないですか。

 三船は現役時159センチ、55キロと小兵だった。銀次も174センチとプロ野球選手では小柄だ。かつて普代村の中学生が柔道の合同練習を行うため久慈市にやって来た。2つ隣の村と市に交流があったのだ。寄り道した久慈で「当たり久慈(くじ)」を引いた。

普代村にある北緯40度シンボル塔
普代村にある北緯40度シンボル塔

 八戸から2時間弱で普代村に到着。銀次は小学3年時から、この地で育った。銀次選手普代後援会事務局長の前川正樹さん(30)に会うと、久慈以上の「当たりくじ」をゲットした。

 前川さん 昆布で村おこしをしているんですよ。銀次も昆布を小さい頃から間違いなく食べている。

普代駅に隣接する店には銀次グッズも販売されている
普代駅に隣接する店には銀次グッズも販売されている

 09年に「ふだいの昆布で村おこし!プロジェクト」が発足。長さ4メートルの昆布なら、廃棄していた根元と葉先の1メートルをクッキーやかりんとう、うどんなどに加工した商品を開発した。レシピ集を作成して販売促進し、県内盛岡市で「普代フェア」を開催したこともある。

 前川さん 小、中学校の給食でも昆布が出るんです。

 煮物と一緒に、サラダになったり。今では昆布うどんもメニューの1つだという。地元の食堂では小鉢として出される。天ぷらにする家庭もある。昆布漁は4月末から6月ごろまでと今が最盛期だ。

 前川さん 銀次の丈夫さは昆布からきているんじゃないですか。

 キタッ-。村の特産品「すき昆布」はヨードをはじめカルシウム、ビタミン、ミネラル、食物繊維がたっぷり。しかも低カロリーで、けがの少ない銀次を支えている健康食品ではないのか。

銀次が小、中学時代に走った普代浜の砂浜
銀次が小、中学時代に走った普代浜の砂浜

 前川さん 昨年、腰をケガをした時に村から昆布を贈りましたよ。

 銀次は今でも地元の昆布を口にしている。試合中のアクシデントで5月23日からファームで調整中だが、もとは体の強い選手。丈夫さと言えば三船10段にも共通する。馬内さんの話が思い浮かんだ。

 馬内さん 少年の頃から体は丈夫だったと言われています。

 久慈市内のスーパーマーケットには、普代産の昆布が並ぶ店もある。その昔、もしかして三船10段も食べていたのかも?

 村おこしに詳しい普代村役場、農林商工課商工観光対策室係長の高井俊一さん(42)を訪ねた。

 高井さん 昆布を通じて村の振興につなげたいんです。

 13年度の収穫量は約184万キロ。岩手で1、2位を争う。今年1月からは盛岡市在住の女性料理研究家を「昆布大使」に任命し、「ふだいの昆布」を広めようとしている。

 高井さん 将来的には銀次選手になってもらいたい。

 昆布で育ち、昆布で恩返し。銀次が大使になれば村民全員が「よろコンブ」!【久野朗】

 ◆すき昆布 こげ茶色の肉厚な昆布を90度の湯に通すと、鮮やかな緑色になる。それを一気に流水で冷却し、さらに機械で2、3ミリ幅に刻み、板ですいて6時間乾燥させる。平に干したものが商品となり、1度ゆでてあるので塩気は薄く、食感は柔らかい。

 ◆空気投げ 一瞬にして相手の両袖を取り、相手が動に移ろうとする際に身をかがめて、相手を押し上げて重心を奪う技。

 ◆普代村 岩手県北東部、下閉伊郡の最北端に位置する。北緯40度東端の地にあり、同40度00分00秒のポイントが同村黒崎のアンモ浦にある。東方一帯は太平洋に面する。世界3大漁場の1つの三陸沖で特産品の昆布のほか新巻きサケ、うに、アワビが水揚げされる。5月1日現在で人口約2900人。柾屋伸夫村長。