オリンピック(五輪)メダリストが、もう1つの夢に挑戦する。08年北京、16年リオデジャネイロ五輪柔道女子52キロ級銅メダルの中村美里(29=三井住友海上)が8強入りし、本戦の出場権を初めて獲得した。

初戦の2回戦から準々決勝までの4試合、自身よりも重い相手に巧みな組み手とスピードある足技を積極的に繰り出して「自分らしさ」を貫いた。4回戦まで相手を指導3の反則負けに追い込み、準々決勝では大住有加(JR東日本)に一本負けを喫したが、上位8人まで得られる本戦の出場権を獲得した。

軽量級で2年連続の異例の挑戦を続けた中村は「皇后杯(全日本女子選手権)出場は、五輪金メダルと同じぐらい夢だった。挑戦出来ることが本当にうれしい。柔道は体の大きさだけでないことを証明したい」と意気込みを示した。

リオ五輪後の17年4月に「柔道以外の視野を広げたい」との理由で筑波大大学院に入学。スポーツ健康システムマネジメントを専攻し、12年ロンドン五輪女子57キロ級金メダルの松本薫さん(31)らを題材に「柔道トップアスリートの妊娠・出産」を研究した。昨年10月の福井国体以降は、本格的に修士論文の執筆に着手し、稽古は12月から週1~2日に激減。先月から強度の高い稽古を始め、無差別対策として体重も56キロまで増量させた。本戦では東京・渋谷教育渋谷高の後輩で78キロ超級世界女王の朝比奈沙羅(22=パーク24)と、同アジア女王の素根輝(18=福岡・南筑高)との対戦を臨む。「超級選手からすれば『ふざけるな』になるかもしれないけど、出られるのだから2人とやってみたい」。

所属の柳沢久監督は「2回戦の超級選手がヤマだったけど、中村らしいコツコツ型の柔道で勝ちきったことが大きかった。後輩たちの良いお手本になる」と話した。

世界選手権を3度制し、五輪3大会に出場するなど世界と戦ってきた中村は、ここ数年で柔道との向き合い方が変わった。「強化でトップを目指すだけが現役ではない。柔道が好きな気持ちがあり、その思いがある限り競技を続けたい」。1カ月後に迫る大舞台で、もう1つの夢をかなえるためにコツコツと前へ進む。

 

▼以下、全日本女子選手権出場者

稲森奈見(三井住友海上)高山莉加(三井住友海上)大住有加(JR東日本)佐々木ちえ(東京学芸大)高橋瑠璃(帝京高)中村美里(三井住友海上)鶴岡来雪(コマツ)荒谷莉佳子(帝京科学大)