リオデジャネイロ五輪金メダルの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)が、偉大な壁を乗り越えて五輪連覇へ前進した。

女子57キロ級で伊調馨(34)と対戦した川井は持ち前の攻めの姿勢を貫き、3-3ながら内容の差で辛勝。憧れで目標でもある先輩を下し、62キロ級の妹友香子(21)とともに東京オリンピック(五輪)出場権がかかる世界選手権(9月・カザフスタン)出場を決めた。

川井の気迫が、伊調を飲み込んだ。第1ピリオドこそ1点をリードされたが、常に攻める姿勢は変えなかった。6分間でタックル6回。絶対女王の足を狙い、とった。返し技を恐れていた「弱気」はない。積極的なタックルから2点を奪って、試合をリードした。

2-3で迎えた終盤、伊調の圧力を受けた。残り3秒で押し出されて3-3と並んだ。「頭は真っ白でした」と話したが、冷静だった。スコアが並んでも最大ポイントで勝者。無理をせずに外に出た。「分かっていました」。ギリギリの試合を勝ちきって言った。

12月の全日本選手権で復帰した伊調に敗れ、東京五輪が遠のいた。「レスリングをやめようと思った」。年末年始、拠点の至学館大から金沢の実家へ帰った。例年ならオフの時もマットに上がるが、今年は戻らず。練習から遠ざかった。

母初江さんと2人の夜。「やめたい」と明かす川井に初江さんは黙ってうなずいた。「続けて欲しいと言われて続けられる競技じゃない。頑張れと言われても頑張れるような競技でもない」と初江さん。「自分の気持ちが1番大切」。母として応援していること、応援する人が大勢いることを説いた。「お酒を飲みながら、ボロボロ泣きました」と川井は振り返った。そして「やめないでよかった」と笑顔で話した。

「小学生のころ、活躍している馨さんを見ていた」と話した。至学館高、大と伊調と同じ道を歩んだのも「憧れ、尊敬する先輩」のように強くなりたかったから。リオ五輪前年の15年、伊調を超えられずに58キロから63キロに階級変更する苦渋の選択をした。金メダルはとったが、悔しさは変わらなかった。だからこそ「リオの時とは違う」と偉大な先輩を超えて胸を張り、東京五輪での活躍を誓った。【荻島弘一】