国際オリンピック委員会(IOC)の鶴の一声からわずか16日で東京から札幌に移されたマラソンと競歩。強引すぎる手法に、各界からは不満の声が漏れた。

IOCが強調した「アスリートファースト」を国内関係者は冷ややかに見る。「オリンピック(五輪)の華 札幌へ」と題し、3回の連載で移転騒動をひもとく。

   ◇   ◇   ◇

ある組織委幹部は言う。「IOCはいいかげんだ。自分たちでスタート時間繰り上げに反対したんだ」。かねて暑さ対策で組織委が提案し続けていた早朝開始。森喜朗会長は午前5時スタートにまで言及していた。しかし、早朝を嫌がったIOCは「パリでは40度でやった」などと、真剣に取り合わなかった。

昨年8月、森氏は安倍晋三首相に、五輪の暑さ対策を念頭にサマータイム導入検討を求めた。安倍首相は自民党に検討を指示。党内に作業部会が設置された。残り2年を切った五輪までの導入は、当初から難しいと分かっていた。それでも真剣に議論。日本が国を挙げて暑さ対策を講じている姿勢を、IOCにアピールした。それでようやくマラソンの開始時間が1時間早まり午前6時となった。

それが一転、今年9月の陸上世界選手権女子マラソン、酷暑のドーハで棄権率が40%を超えた。10月16日に札幌移転案を急転直下、発表。大会関係者は「IOCはびびったんだよ。選手第一というよりも、8月開催に文句を言われることにびびったんだ」と言った。

IOC最大の収入源は米放送局の放送権料だ。米NBCは14年ソチ五輪から夏冬10大会の米国向け放送権を計120億ドル(約1兆3000億円)で取得。人気スポーツが手薄な7、8月に五輪を実施してほしいという強い意向がある。1日に、その痛いところを小池百合子知事が突いた。「五輪開催の前提条件、7、8月の実施は北半球都市のどこにとっても過酷な状況で難しい」。しかし、IOCのコーツ調整委員長は「複数都市での開催もできるよう憲章を変えた」と正面からの回答を避けた。

ある都庁幹部は「欧州だって熱波がある。国内の名古屋、福岡だって今後、手は挙げられない。今回の事例で立候補都市はさらに減るだろう」とあきれた。別の組織委幹部は言う。「分散開催も8月の開催時期を突かれたくないから。IOCの面目を保ち、何かあったら『日本の責任』と逃げるだけ」。今回の移転はアスリートファーストではなく、まさに「IOCファースト」の極みだった。

(続く)【三須一紀】