5種目を終わって、2位の内村航平(27)に0・901点の大差をつけた。男子個人総合決勝。オレグ・ベルニャエフ(22=ウクライナ)の金メダルは目の前だった。しかし、最終種目の鉄棒。点数が出た瞬間、ベルニャエフは〝まさか〟と目を疑った。世紀の大逆転負け。わずか0・099点差で、金メダルを逃した。

メダリストの会見で、海外の報道陣から、内村に質問が飛んだ。「審判に好かれているのか?」。1種目で大差を逆転できたことが、疑惑を生んだのだろう。しかし、これにかみついたのが、質問もされていないベルニャエフだった。マイクのスイッチを入れた。「無意味な質問だ。伝説的な選手と、最高の戦いができたことが大事なんだ」。

祖国は政情不安定で、支援など望むべくもない。練習器具はお粗末で、才能がある選手は、ロシアや近隣に国籍を変え高額を手にした。しかし、ベルニャエフだけは「僕はウクライナ人だ」と、祖国愛を貫く。

過酷な環境の中で才能と努力が花開き、15年欧州選手権個人総合優勝。そして、この8年間で、初めて内村を断崖まで追い詰めた初めての選手になった。「内村は体操界のフェルプスやボルトのような存在。一緒に戦えるだけで幸せ」。打倒内村と世界の頂点は、すぐ目の前に迫っている。

(2016年8月12日付日刊スポーツ紙面「敗者の美学」より)

■試合経過(【】内は種目終了時点での順位)

<1:床運動>

内村航平は新月面、3回ひねりの着地を決めて15・766点。加藤凌平もわずかにバランスを崩すミスがあり15・266点。【内村2位、加藤3位】

<2:あん馬>

内村はミスのない安定した演技で14・900点。着地後はガッツポーズ。加藤も同じ14・900点。【内村1位、加藤4位】

<3:つり輪>

内村は美しい動きで力技もしっかり止める。まったく動かない着地で14・733点。加藤は着地でわずかに動き14・566点。内村は3位に下がり、ベルニャエフが1位、ウィットロック2位。【内村3位、加藤4位】

<4:跳馬>

内村はリ・シャオペンをほぼ完璧に演技。15・566点の高得点をマーク。加藤もロペスの着地でわずかに動いただけで15・058点。ベルニャエフは跳馬15・500点で1位キープ。【内村2位、加藤6位】

<5:平行棒>

加藤は着地で後ろに動き14・900点。内村は途中のモリスエなどミスなくこなしたが着地では前に1歩動き、15・600点。1位ベルニャエフが16・100点という高得点で差を0・901点に広げられる。【内村2位、加藤7位】

<6:鉄棒>

加藤はコスミックで落下し13・900点。内村はカッシーナ、コールマンなど成功させ、伸身新月面宙返りの着地も完全に止めて15・800点。ベルニャエフは14・800点と伸ばせず、内村が逆転の金メダル。【内村1位、加藤11位】