東京パラリンピック金メダルで、世界王者の国枝慎吾(38=ユニクロ)が、3時間超えの大激戦の末、男子シングルス史上初の生涯ゴールデンスラム(4大大会全優勝とパラリンピック金メダル)の快挙を達成した。ともに初優勝を狙った同2位のアルフィー・ヒューエット(24=英国)に、最終セット2-5から4-6、7-5、7-6の大逆転で初優勝を遂げた。

2年半ほど前だったか。国枝から、ウィンブルドンへの並々ならぬ意欲を聞いたことがある。東京パラリンピック開催まで時間があったため、毎年、行われる4大大会が現実問題だった。「(パラリンピックより)ウィンブルドンに勝ちたい」。さらりと語った。

パラリンピックのシングルスは、すでに08年北京、12年ロンドンと2度の金メダルを経験。それよりも、まだ克服していないテニスの代名詞であるウィンブルドンのタイトルを、純粋に渇望していた。その後、東京パラリンピックが、国枝のテニス人生最大の目標に変わったことも間違いがない。

東京五輪、パラリンピックの開催をめぐって、国枝に意見を求めることも多かった。パラアスリートで、最も世界的に名前が知られ、当人も、リーダーとして公に物事を語る。聖人君子とまではいかなくとも、アスリートのロールモデルとしての存在。誰もが、それを国枝に見ていた。

しかし、昨年、結婚10周年を迎えた妻の愛さん(38)は、「彼の公のイメージは優しいし、しっかりしている人? でも、私生活では、いいかげんにしてくれってことが多い」と、苦笑いだ。自宅にいるときはゲーム、将棋に夢中になる。

10年以上前、国枝がまだ独身の頃だ。飯を食べながら、くだらない話をしていた。その時の国枝の話が忘れられない。「口説きたい女の子と居酒屋に行って、よしと思ったときに、悪いけど、トイレに行くの手伝ってくれないかって言うのはかっこ悪いよね」。

どんな小難しい言葉よりも、その普通の感性が、心に刺さった。周囲が作り上げたロールモデルのような国枝慎吾は、そこにはいない。普通の青年が、車いすテニスに出会い、楽しくて世界を目指した。パラリンピックの金メダルも、ウィンブルドンのタイトルも、世界を目指した先にあったに過ぎない。だからこそ、純粋に強さを求め、誰よりも勝利への方法を探し求めた。

◆ウィンブルドンテニスは、男女シングルス決勝、車いすテニス男女シングルス決勝ほかが、15日午前9時から、16日午前11時から、17日午前11時から、WOWOWライブで録画放送される。WOWOWオンデマンドでも同時配信される。

 

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