一体どんなプレーヤー? パリ五輪で12年ロンドン五輪の銅以来のメダルを目指すバレーボール女子代表「火の鳥 NIPPON」。その登録メンバー40人に身長196センチの無名選手が選出された。米大学院を卒業間近の小林エンジェリーナ優姫(23)。日の丸初選出選手にスポットを当てる連載の中編は、強化合宿への合流を心待ちにする日本×米国ハーフのミドルブロッカーを紹介する。【取材・構成=勝部晃多】

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3月27日の代表登録メンバー発表会見。その場にいなくても、数字だけでファンと報道陣を驚かせた選手がいた。日本代表歴代最高の身長196センチ、小林エンジェリーナ優姫。米大学院に通う無名プレーヤーが初選出された。

「今も信じられない気分です。母の母国の日本でバレーボールができるとは思っていなかったので、本当に楽しみ。一生懸命、頑張りたいです」。流ちょうな日本語で、満面の笑みを見せた。

母は「160センチ以上かな」という日本人。父はプロバスケ選手としてフランスやエジプトなどを渡り歩き、日本でもトヨタ自動車ペーサーズ(現アルバルク東京)で5年ほどプレーした「2メートル3センチ!」の米国人。そんな両親を持つエンジェリーナは生まれも育ちも米国イリノイ州だが、大好物は全て日本食だ。「ギョーザ、春巻き、とんかつ、カレー…全部好き。納豆ご飯も食べます! シカゴは日本人が多いので日本の物がいろいろ買えるんです。家では日本語も結構しゃべります」。小、中学生時には、長期休暇を利用して日本の学校にも通った。好きな漢字は「書くのが楽しい」という理由で「楽」。幼い頃から和の文化に慣れ親しんできた。

バレーを始めたのは、意外にも高1。それまでは好きなクラシック音楽に興じ、ピアノとクラリネットを奏でてきた。運動とは無縁だったが「友達や体育の先生にも『バレーボールはすごくいいと思うよ』って言われて始めた。やってみたら本当に楽しくて、好きというだけで続けてきました」。スタートこそ遅かったが、両親から譲り受けた身長と運動神経でめきめきと頭角を現した。

大学はノーザンイリノイ大に進学し、4年間プレー。その後ウィスコンシン大グリーンベイ校大学院に進んだ。昨年はコロナ禍による特例で同大で大学生とともにプレーし、チームのリーグ3位(全10チーム)に貢献。「これでバレー生活は終わり」と区切りをつけ、就職のための面接準備を進めていた。

そんな時に届いた代表入りの報。頭の中には日本代表の「に」の字もなく、「最初はあんまり実感もわかなかった。バレーボールを楽しめるんだったらいいなって」と今年2月に来日。若手主体の強化合宿に参加し「緊張したが、バレーが本当に全部楽しかった」と心は固まった。

本格的な合流は5月13日の大学院修了式後の予定。「今は楽しみで仕方がないです。日本代表ってすごいこと。チームと一緒にやることが一番楽しいところだから、みんなと一緒に頑張りたい」。果たしてどんなプレーを見せてくれるのか-。サイズが目を引くが、何よりの魅力は、大好きなバレーボールを心から楽しむ明るさ。そんな“逆輸入”選手が、パリ五輪への起爆剤となるかもしれない。

◆小林エンジェリーナ優姫(こばやし・えんじぇりーな・ゆき)1999年(平11)12月10日、米国イリノイ州生まれ。英名はエンジェリーナ・グロモス。高1で競技を開始。ノーザンイリノイ大ではマーケティングと経営管理学を学び、ウィスコンシン大グリーンベイ校大学院に進学。父はバスケのトヨタ自動車ペーサーズ(現アルバルク東京)などで活躍した米国人のジェフさん、母は日本人の亜美(つぐみ)さん。196センチ、80キロのミドルブロッカー。

◆ミドルブロッカー 前衛のセンターで、主に相手のアタックをブロックする役割を果たすポジション。守備の要としてだけでなく、高さを生かしたクイック攻撃など、高い攻撃力とスピードも求められる。同ポジションでは08年北京五輪で荒木絵里香がベストブロッカー賞を受賞している。