1年目より2年目。2年目より3年目。年々力を付けてきた。ソフトバンク塚田正義外野手(26)は今季4年目だ。白鴎大出身で昨シーズンのウエスタン・リーグでは98試合に出場し、345打数108安打、打率3割1分3厘で打撃ベストテンの2位。15本塁打もリーグ2位、さらに11盗塁は走れる選手を証明。打点70と出塁率の4割2厘で2冠王に輝いた。懸命に野球と向き合った、ひたむきな努力が実って今季は「開幕1軍」の切符を手にした。ひのき舞台で注目を浴びるチャンスだ。踏ん張りどころである。目の色を変えてアタックしたが、結果は身も心も打ちのめされて「ファーム落ち」の断が下された。再スタートだ。

 実力主義の世界である。厳しいのは十分承知した上で飛び込んだ世界でもある。1軍昇格を果たせば無数の試練が待ち受けていて当然。なのに結果が出せず「2軍落ち」するときには、己の力不足であっても素直になれない。私も幾度となく経験した。こんなこともあった。負けゲームのリリーフ登板だった。相手に得点を与えず踏ん張っていると、運良く逆転してくれて勝利投手になった。ピッチャーには勝ち星が一番の薬だと言われるように、気分は上々。ハイテンションになっているところへ何故か「ファーム落ち」の通告。一気に奈落の底へ突き落とされたことがあった。ショックと怒りで大荒れ「これがプロだ」とわかるまでには相当の時間を要した。塚田もそうだろうが「もう、技術の差とか、ハートの問題だとか言っている状況ではありませんでした。1軍は結果がすべてですね」いまではショックも癒えて再昇格目指して奮闘中である。

 何が足りなかったのか…。どんな状況であったのか…。水上2軍監督に聞いてみた。「彼の場合、パンチ力もあるし、大きいのを打てるタイプなので、上ではなぜか大きいのを打とうという気持ちが強過ぎて、自分の持っているいいものが出せなかった。1軍へ行けばそんな簡単にインコースへ打ちやすいボールを投げてくれるピッチャーなんていませんよ。そこらへんの考え方を変えていかないと、いい結果は出せないです。昨年ファームであれだけの成績を挙げている選手ですから。ピッチャーの配球とか、自分のバッティングをもう一度考え直して頑張れば、また昇格するチャンスはあります」。いいセンスの持ち主だ。大いに期待を寄せている。

 今回の関西でのゲームは甲子園、甲子園、鳴尾浜球場で行われた対阪神3連戦。動きはいい。調子は上昇気味と見た。本人も「状態は上向いています」と笑顔。1軍での結果を振り返ってみると11試合。10打数2安打1本塁打、1打点だったが、先日の3試合の内容は13打数5安打1打点。放ったヒットの方向は左前が1本、中前、右前がともに2本。きっちり3方向に打ち分けているのは1軍の反省を踏まえた結果だろう。水上監督が気にしていた一発狙いは完全に影をひそめ、自分のバッティングに徹していた。今シーズン、ファームに降格してからの通算成績は8月3日現在57試合に出場。197打数、56安打、打率は.284。記録を調べてみた。すると、約3カ月近くホームランが出ていない。己を見つめ直しているのは間違いない傾向だ。

 1軍を経験した。“メジャー”という大波に襲われ、必死にもがいて浮上しようとしても、波間から顔を出すことすらできなかった。完全に沈没して己を知った。強力なチームだ。競争の激しいチームだ。次回の昇格ではその二の舞は演じたくない。「再挑戦です。もう一度ファームでしっかり鍛え直します。技術面はもちろんのこと、強い精神力も身に付けないと通用しないと思いますので。何事にも挑戦していきます」さらなる上を目指して頑張っている。一時は内野から外野へコンバートされたが、今年はまた内野(三塁)を守っている。「チャンスは多い方がいい」貪欲な気持ちはこの世界ではプラス材料だ。

 華やかな雰囲気を味わった。実力は自分の目にしっかり焼き付けてきた。目標ははっきりした。体験して培った財産を活かした選手が、1軍で活躍している。