阪神のマウンドには藤浪が上がった。対するオリックスはディクソンである。3月28日の鳴尾浜球場、ウエスタンリーグの公式戦でありながら、1軍さながらの雰囲気。スタンドの収容は500人で満席。担当者は大変。予想どおり午後0時15分で入場はストップ。推定年俸1億6000万円の人気者・藤浪と、同1億8000万円のディクソンが生で、それも無料で目の当たりにできるとあらば、大盛況は当たり前。両投手の調整登板は前々から新聞等で報道。ファンの人が少々不便なところであっても来場するのは当然。入場できて喜んだ人。一歩手前でガックリした人。悲喜交々の光景を目にしたが、グラウンドでも火花は散っていた。大いに楽しませてもらった。

 藤浪が6イニングを被安打1、6奪三振で無失点に抑えれば、ディクソンは5回被安打4、8奪三振、2回に許した2失点の好投。1軍と2軍の力の差を見せつけてくれた。特に藤浪。昨年まではもっともっと力んで力んで投げていたはずなのに、この日見た限りではイメージがガラッと変わっていた。

 「カウントを取りたいときには、今日みたいにリラックスして投げられたらいいな、と思っていましたので、そういう面で収穫はあったと思います」

 いい意味で、力みのないひと味違うピッチングを見た。着実に進歩している。この日の軍配は藤浪に上がったが、ディクソンも来日して5年目になる。投球にバラツキはなく2桁勝利も期待できそうだ。

 注目は両投手のピッチングに絞られたが、物の見方はいろいろある。要するに発想の転換だ。私は、むしろファームのバッターが1軍の主力投手にどう立ち向かうかに注目した。こんなチャンスはめったにない。特に阪神、金本監督が練習後、京セラドームから駆けつけていた。そこへ、坂井オーナーが来場した。ネット裏の球団ブースで2人が並んで観戦。バッターは打席にはいる前、ピッチャーはマウンドからはっきり見える。無意識を心掛けても無理な話。対処法は……。開き直るしかない。駄目元で挑戦するしかない。実力の差は見え見えだ。仮に打てなかったとしても、首脳陣たるもの。打席での姿勢、カウントによる球種の絞り方など、事細かに観察しているもの。「案ずるより、産むが易し」果たして結果は-。アピールした若手が出現した。

 陽川尚将内野手。完璧に捉えた。打った瞬間ホームランとわかる一発だった。昨年ウエスタン・リーグで本塁打、打点の2冠に輝いたものの今年、なかなか調子があがってこない。キャンプはファーム組だった。現在も2軍生活だ。3月の練習試合でも、バットの振りは鈍い。速い球には差し込まれる。ボールを追いかけるから悪球に手が出る。八方塞がり。悪い面ばかりが目立っていたが、かなりのプレッシャーがかかる中でのアピールは“力”を付けてきた証。翌日の試合でも1軍の主力投手松葉から1、2打席と連続してレフトフェンスを直撃する二塁打を放った。

 「もう大丈夫だと思います。ディクソンから速い球を打てたのが大きい。キャンプから帰ってきてからの練習試合でも、なかなか調子をあげることができませんでしたが、あの一発で気持ちが楽になりました。次の日の2本の二塁打は前日のホームランがあったからだと思います。この状態を持続していけるように頑張ります」

 陽川にやっと笑顔が戻った。私がこの日もう1人注目した選手がいた。オリックス宗佑磨内野手(20)だ。横浜隼人からドラフト2位で入団した今季3年目。背番号の“6”が期待の証。父はギニア人。3拍子そろった申し分ないセンスの持ち主。バッティングは、バットを構えたトップの位置からインパクトまでの出が速い。1軍で活躍している選手に多い打撃の傾向だ。走力も50メートル5秒8の快足。2年目の昨年早くも1軍デビュー。終盤3試合に出場しヒットこそ出なかったが、将来有望な若手だけに藤浪との対戦に注目した。

 「とりあえずは1年でヒットを打つのが目標です。そうですね。藤浪さんからヒットを打ちたかったです」。翌日は中前打を放って盗塁を決めた。苦難はまだまだ続く。若い選手だ。少々頭をうってもそこからはい上がってこそ本物だ。

 自信を持った選手。悔しい結果に終わった人。スタンド同様さまざまな1日だったが、こういう野球の見方も面白い。またのチャンスに期待しよう。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)