<巨人4-8阪神>◇4日◇東京ドーム

 阪神が宿敵巨人から1日で首位の座を奪い返した。2回、9番メッセンジャーの1号2ランがビデオ判定で覆り、二塁打に変更される不運に見舞われた。ここで、流れを引き戻したのが、鳥谷敬内野手(29)だ。2死二、三塁から会心の右前2点打。勝利の女神を振り向かせ、8-4の勝利に導いた。2安打止まりで、連続試合猛打賞は3試合で途切れたが、個人記録よりチームの勝利。頼れる選手会長に導かれた猛虎が、勢いを取り戻した。

 この日も運命の女神がそっぽを向くのか。左翼席に陣取った虎党の多くがそう感じたに違いない。でも、この男は違った。「レフトの動きを見ていれば入ってないと思ったので、気持ちの持っていき方は難しくなかった」。心は熱く、頭は冷静に-。選手会長も務める鳥谷のバットが、嫌な流れを一掃した。

 2回。1点を先制し、なおも2死一塁でメッセンジャーが左翼席へ2ランを放った。これで3点差…と思いきや、ビデオ判定でまさかの本塁打取り消し。2死二、三塁という状況で試合が再開されることになった。ここで無得点に終われば、試合の流れを失いかねない大事な場面。普段からクールな男は“問題”の場面に直面しても冷静だった。

 際どいコースを攻める巨人先発内海の誘いに乗らず、好球を待つ。そして訪れたフルカウントからの7球目。外角スライダーを強引に引っ張り込み、ゴロで一、二塁間を破った。三塁走者浅井に続き、幻の本塁打を放ったメッセンジャーも生還。ビデオ判定で幻となった2点を、すぐさま奪い返した。「昨日は序盤のチャンスを生かせなかった。今日はいい形で返せてよかった」。右翼高橋が本塁送球する間、自身は二塁を陥れるスキのない走塁も見せた。

 “問題”のシーンがビデオ判定されている間、鳥谷は1度ベンチ前に戻り、入念にバットスイングを繰り返した。本塁打か取り消しか。あらゆる状況を想定し、黙々とバットを振った。「中断している間は(本塁打取り消しでの試合再開は)2死二、三塁だし、とにかくつないで走者を返そうと思っていた」。チームにとってはマイナスな判定でも、この男にとっては「想定内」。そしてしっかりと、結果を残した。

 「ビデオ判定があったが、それを鳥谷、平野が(適時打で)続いてくれた。かえってよかったのかな」。試合後の真弓監督も、ビデオ判定によって取り消された2点以上の“副産物”を満面の笑みで振り返った。前日3日の首位攻防第1ラウンドは11安打を放ちながら3併殺10残塁と運に見放され、首位陥落。指揮官も「ツキがなかったというのが大きい」と肩を落としていた。たった1日で首位の座を奪い返した。

 鳥谷は球団新記録となる4試合連続猛打賞こそ逃したが、4試合連続マルチ安打で打率も2割8分1厘まで上げた。「連敗しなくてよかった。1勝1敗なので、明日勝ち越して(次カードの名古屋へ)行きたい」。指揮官の思いは、ナインにも届いているに違いない。【石田泰隆】

 [2010年8月5日12時48分

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