果たして勝ったのはオカダだったのか。19日の新日本大阪城ホール大会を取材して、考えてしまった。メインのIWGPヘビー級選手権試合。王者内藤哲也(34)と、挑戦者オカダ・カズチカ(28)の戦いは、入場から試合後のオカダのマイクパフォーマンスを含め、かつてないほどの充実した内容だった。

 挑戦者オカダの入場も迫力満点だった。しかし、オカダの入場曲が終わり、内藤の入場曲が始まるまでの一瞬の間で、9925人と超満員の会場がどっと沸いた。地面から突き上げるような歓声は、昨年まで大ブーイングにさらされてきた内藤への期待を示していた。

 まず1人で姿を現した内藤。白いスーツにガイコツの仮面。スポットライトを浴びて、内藤は大歓声とブーイングを楽しんでいるようだった。ロスインゴベルナブレス・デ・ハポンの仲間、EVIL、SANADA、BUSHIを引き連れ、いつものように花道をゆっくり、ゆっくりと進む。リングサイドの木谷高明オーナーを見つけると、歩み寄りなんと握手を求めた。戸惑いを見せながら握手に応じる木谷オーナー。これまで、事あるごとにかみついてきたオーナーとの“和解”の演出。内藤は入場の5分ほどの時間で、大阪のファンも、木谷オーナーも、会場の雰囲気もすべてをコントロールしていた。

 試合は、最後まで壮絶な戦いだった。最後はオカダのレインメーカー3連発に沈んだが、最後までどちらが勝つか分からない、新日本のメインにふさわしい戦いだった。年初から中邑真輔やAJスタイルイズらの主力のWWE移籍で揺れた新日本。昨年21年ぶりの開催で盛り上がった大阪城を支えた四天王のうち、中邑、AJ、棚橋がいない大会も、終わってみれば集客、試合内容ともまったく昨年と遜色なかった。木谷オーナーは試合後の大会総括で「2、3、4月で不安は全くなくなり、6月で完全に払拭(ふっしょく)した。一番の功労者は内藤さんです」と明言した。

 「1対1で戦おう」というオカダの要求を入場で裏切り、さらに試合ではセコンドを引き揚げさせ、オカダにもファンにも肩すかしを決める。「制御不能」でくくられがちな内藤のパフォーマンスだが、実はつねに「何が起こるか分からない」とファンを疑心暗鬼にさせる緻密な計算も働いている。

 「オカダもオーナーも、新日本プロレスファンもみんなオレに感謝しろよ。すべてはオレの手のひらの上だ」という試合後の内藤のコメントも名セリフだった。少年時代に見た東京ドーム大会の入場にあこがれて、内藤はプロレスラーになった。東京ドームではなかったが、大阪城ホール大会のメインの入場で、内藤は夢をかなえ、敗れはしたが、新日本のトップレスラーとしての地位を確立した。【プロレス担当=桝田朗】