<DREAM:埼玉大会>◇23日◇さいたまスーパーアリーナ◇2万929人

 39歳の船木誠勝(ARMS)が、約9年ぶりの勝利にリング上で男泣きした。パンクラス時代の後輩ミノワマン(32=フリー)を相手に1回52秒、かかと固めで1本勝ち。00年5月のヒクソン・グレイシー戦後には1度引退、昨年大みそかの復帰後3戦目で復活を飾った。

 船木の目から、9年分の熱い思いが止めどなくあふれ出た。開始直後からミノワマンに組みついて足を取ると、もん絶する相手のかかとを一気に締め上げた。その間、わずか52秒。船木にとっては、99年10月にパンクラスでトニー・ペテーラに勝って以来、待ちわびた歓喜の瞬間だった。

 相手は、自身がパンクラスで全盛を極めた時に入団してきた後輩ミノワマン。対戦が決まった時には「介錯(かいしゃく)するなら、首の皮1枚残さずに」と、因縁対決に進退を懸ける構えを見せた。それだけに「(ファンが)祝福してくれるのが伝わってきた」。勝利後には人目をはばからずに号泣した。

 長い道のりだった。00年5月のヒクソン戦に敗れて以降、1度はリングを降りた。新日本やパンクラスで得た知名度を武器に「俳優とかをやって行こうと思った」。しかし格闘技しか知らない男に対する世間の風当たりは強かった。プロレスで蓄えた貯金もすぐに底をつき、生活するために頭を下げて工事現場で働いたこともあった。

 昨年大みそかに桜庭と対戦するというチャンスが訪れ、現役復帰を決意した。結果は1回6分25秒で1本負け。続く4月も、UWF時代の後輩・田村にTKO負けした。それでも船木の心は折れなかった。「ここで負けたら再びリングに上がれなくなる」。15歳以上も年の離れたK-1ファイター沢屋敷や前田らの道場に通い「新弟子からやり直すつもりで」胸を借りた。39歳、なりふり構わぬ努力が勝利を呼び込んだ。

 同じく「アラフォー(40歳前後)」の桜庭が今年6月に左腕尺骨を骨折した。総合格闘技が根付いて15年、第一線で活躍してきたファイターたちにも陰りが見え始めている。そんな中での船木の勝利は、格闘家だけでなく同世代のファンにも勇気を与えたはずだ。【山田大介】