第23回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)の授賞式が28日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われた。妻夫木聡(30)が「悪人」で主演男優賞を獲得し、前年の同賞受賞者で落語家の笑福亭鶴瓶(59)から表彰盾を贈られた。

 撮影からほぼ1年が過ぎた授賞式、妻夫木は「悪人」の紹介映像にじっと見入っていた。終了後、「うーん、自分で見ててもびっくりした。自分の顔じゃない」と、感慨深げに話した。共演者の満島ひかり(25)が「最近も仕事が一緒だったんですが、妻夫木さんってこんなにきれいな顔してたんだと思った」と感じたほど、妻夫木は、「悪人」でイメージを捨て去った。

 98年に俳優デビューし、いい人、好青年を演じることが多かった。「(好青年と)言われるうちが花」と言う妻夫木だが、悩みがなかったわけではない。「自分では個性がないと思っていた。個性を出さなきゃだめだよ、って言われることが多かった」と振り返る。知名度、人気が上がったころ、強烈な個性派と言われた窪塚洋介が人気者になったことも、妻夫木=好青年のイメージを固めていったという。悩みや迷いを経て、たどりついたのが「個性がないのも個性。いろんな顔や色になれる」という役者としては最高の個性だった。

 自分が演じた役をじっと見つめていた妻夫木は、これまでのキャリアを思い浮かべたのかもしれない。ステージに上がると「役者を始めて13年目。ようやく脱皮できたかな、なんて。『好青年』から変わんなきゃいけない、って言われてたので、頑張って大人になろうと…」と苦笑いした。

 今月30歳になった。年齢を感じさせないようなあどけなさや少年のような表情が残り、会場の観客からは「かわいい」という声も上がった。しかし「悪人」で演じ切れたことが、変わらなければいけないのかという迷いを断ち切った。これから過ごす30代を「自由に、演じることを楽しみたい」。肩の力が抜けたようだった。

 「実はまだ役から抜けているか分からない」と言うほど入り込み、間違いなく代表作になった「悪人」だが、「ゼロに戻れた。12年の集大成」と話すように気持ちは新たな方向へ向かっている。

 昨年の主演男優賞で、ドラマでも共演したことがある鶴瓶から表彰盾を受け取った。妻夫木は「魂のぶつかり合いだった」と話すほど共演が刺激になった。鶴瓶も同じ思いをしたそうで、妻夫木の新作は欠かさずに見て、電話などで感想を伝えてきた。「どんどんステージを駆け上っていくなあ。着実に、今までにない役者になっていく」。鶴瓶の言葉がまさに、妻夫木の今を表現している。【小林千穂】