欧州視察中の日本代表バヒド・ハリルホジッチ監督(62)が26日(日本時間27日)、長谷部誠(31)岡崎慎司(29)香川真司(26)ら海外でプレーする日本代表選手の一部とドイツ国内で食事を取りながら、直接自らの考えを注入したことが分かった。この日はドイツ組の複数人が極秘裏に集結した。代表活動期間外に欧州で選手とコミュニケーションを深める異例の集合。指揮官は規格外の発想と実行力で絶え間なく代表強化に取り組んでいる。

 欧州の荘厳な時計台が、午後5時30分を知らせる短い鐘を打った。それは何かの前触れのようだった。しばらくしてラフな普段着のサムライが集い始めた。1人、2人…。日本ではテレビCMにも出演している有名人。いつも人目を避けているが、ここドイツの地では周囲を気にするそぶりはない。

 5時40分。ブンデスで得点を量産する岡崎が登場。5分遅れて、もうすっかりドイツに溶け込んだ長谷部が姿を見せた。集合時刻は6時だったのだろう。2人は余裕を持って到着。時計台が大きな鐘を響かせようかという6時前。香川と大迫が建物に滑り込んできた。続いて酒井高も到着。姿を確認できた5人ともW杯ブラジル大会日本代表。3月始動のハリルジャパンにも招集された代表の顔が、異例の集合を果たした。

 選手たちは日本から来たハリルホジッチ監督の元に集った。“ハリルの晩さん”だった。極秘裏に開催された会合のすべての顔触れと様子は外からはうかがい知れなかった。関係者によれば食事を取り、熱い話し合いが持たれたという。指揮官はドイツで2試合を視察した翌26日、日本協会を通じ「イタリアでは選手と会って話をしました。ドイツでも選手と直接会って話をしたいと思います」とコメントしていた。日本をたつ前から海外組と食事をともにし、対話したいという強い意向を持っていた。ミラノでは本田、長友と3人で膝を突き合わせて話し合ったことも判明。前例のない発想と行動力でシーズン佳境を迎えた欧州で、異例の代表強化が実現した。

 このタイミングで代表側に拘束力はない。香川は2日後にドイツ杯準決勝、Bミュンヘンとの大一番を控えていた。指揮官が熱望して実現にこぎつけたが、あくまで選手がプライベートの時間を利用し自発的に集まったところに監督が合流した形となる。過去の日本代表監督がこういった強化策を実行したことはない。「私は日本のこのプロジェクトにすべてをささげる」と話している指揮官だからこそ実現できた。

 就任後すぐ、東京・JFAハウス内に監督室をつくるようリクエストした。毎日その部屋に通う姿を、招聘(しょうへい)した霜田技術委員長に驚かれると「その常識が非常識だ」と返答している。6月のW杯アジア2次予選開幕まで時間もない。これまでの常識にはとらわれない。1秒も無駄にしない。世界でもアジアでも、頭打ちとなった感のある日本サッカーのアイデンティティー確立へ-。その常識をぶち破る仰天の行動力が、視察中の遠いドイツから伝わってきた。

 ◆過去の視察 トルシエ監督以降、海外組の増減は大きく変化した。ジーコ監督(06年W杯ドイツ大会)は、就任した年の02年12月にMF稲本(フルハム)、MF中田英(パルマ)、MF中村(レッジーナ)らを視察。オシム監督(06年7月~07年11月)時代は小野技術委員長らが欧州を巡回。岡田武史監督(07年12月~10年W杯南アフリカ大会)はW杯直前に海外組をチェック。本田(CSKAモスクワ)、MF長谷部(ウォルフスブルク)、MF松井(グルノーブル)と会談。ザッケローニ監督(14年W杯ブラジル大会)はイタリア、ドイツ、ロシア、ベルギー、イングランドなどを頻繁に視察。アギーレ監督(14年8月~15年1月)は14年秋に約2週間、海外組を視察した。 

 ◆アルジェリア代表監督時代 ハリルホジッチ監督は選手との会話がキッカケで監督就任を決意したことがある。アルジェリア代表監督就任前、初めて同国での交渉の後、選手がハリルホジッチ監督を訪ね「我々と今、話ができますか?」と申し込んできた。この話し合いはチーム全体の議論に発展。2時間にも及んだ末にハリルホジッチ監督は「これは私のためではない。(代表監督を)やろう」と、監督就任を決意したという。