<陸上:第82回日本学生陸上競技対校選手権大会>◇第1日◇6日◇東京・国立競技場

 一度は“同年代のトップ”を走った男が、再びトップを狙える位置に戻ってきた。男子100メートルの九鬼巧(21=早大)が10秒19の自己新で準決勝を1位通過。9秒台を期待されている山縣亮太(21=慶大)は準決勝を棄権したが、決勝は飯塚翔太(22=中大)とのハイレベルの争いが期待できる。

 九鬼が“同年代のトップ”に立ったのは高校2年の全国インターハイ。1学年上の飯塚や、同学年の山縣を抑えて100メートルに優勝した。3人とも昨年のロンドン五輪代表に成長したが、九鬼だけが4×100メートルリレーの補欠で出番はなかった。今年のモスクワ世界陸上も、3人のなかで1人だけ代表入りできなかった。

 山縣は昨年10秒07の五輪日本人最高で準決勝に進み、今季は桐生祥秀(17=洛南高)とともに黄色人種初の9秒台が期待されている。飯塚は今年8月のモスクワ世界陸上200メートルで準決勝に進出。4×100メートルリレーでは4走としてロンドン五輪5位、モスクワ世界陸上6位入賞に貢献した。

 後れをとっていた九鬼が今回の10秒19で盛り返した。桐生の10秒01、山縣の10秒11に続く今季日本3位にランクされるタイムである。「上手くレースを組み立てられれば10秒1台の後半を出せる手応えはありました。春先にケガをして(世界陸上選考会の)日本選手権にピークが合いませんでしたが、ここに来て心と体が1つになって走れるようになってきた。去年の冬から積み上げてきたものが出てきたと思います」

 しかし、和歌山育ちの明るい男に笑顔はまだない。山縣に並べたわけではないことは、十分すぎるほどわかっている。「山縣と桐生がいますから10秒19では話になりません。高校では山縣と良い争いができましたが、高校時代は高校時代。ロンドン五輪を経験して、もっともっと上に行きたい気持ちが強くなりました。飯塚さんもいる学生スプリントの争いに自分も加わっていきたい」

 明日(7日)の決勝は、2連勝を目指す飯塚と“3年ぶりの全国一”を懸けた勝負になる。