男子マラソンの五輪代表選考レースの第1弾、福岡国際マラソン(日刊スポーツ新聞社後援、4日午後0時10分号砲)の招待選手会見が2日、福岡市内で行われた。注目は順大時代に箱根駅伝で活躍した今井正人(27=トヨタ自動車九州)。前回はペースメーカーの暴走もあって5位と屈し、世界選手権代表の座も逃した。今回はその雪辱とともに五輪切符獲得を誓う。

 かつて「山の神」と呼ばれた男は、野性の本能を強調した。今井を囲む輪の中で、話題はペースメーカーに及んだ。前回はペースメーカーが15キロすぎから飛び出す「暴走」が起き、それに食らいついた。自分のペースを見失い、終盤の失速を招いて5位に沈んだ。その雪辱をかけた舞台に「勝負どころを見極めたい。最初から固定するのでなく『野性の勘』です。いけるのがベスト」。箱根の山で研ぎ澄ました感性を武器に、積極的な走りを誓った。

 今回のレースは格別な思いを背負って走る。福島県南相馬市の実家は、東日本大震災で津波被害に遭った。「1週間、どうしようと迷った。ただ、その時も走らないという選択はなかった」。逆に被災した故郷の人々から励まされ、前向きな気持ちを取り戻した。両親は地元から離れ、茨城県内に暮らすが「みなポジティブ人たちばかり。そんな姿に僕も負けたくない」。そう話す目は活力にあふれていた。

 「山の神」は昔の話。今は世界を目指すマラソンランナーの自負が強い。バルセロナ五輪銀メダリストの森下監督からは「五輪は出るものでなく、勝負するもの」と説かれてきた。「僕も、という意識は強い」と言う。さまざまな経験を糧に、今井は大きくなって戻ってきた。【佐藤隆志】

 ◆今井正人(いまい・まさと)1984年(昭59)4月2日、福島県南相馬市(旧小高町)生まれ。順大時代は箱根駅伝の「山の神」として3年連続5区で区間記録。07年春にトヨタ自動車九州入り。妻はアナウンサー。169センチ、55キロ。