<かすみがうらマラソン>◇15日◇茨城・土浦市

 ペースメーカーなのに優勝しちゃった!?

 ロンドン五輪男子マラソン代表を逃した市民ランナー川内優輝(25=埼玉県庁)が、12度目のフルマラソンで初優勝した。弟鴻輝(こうき、19=高崎経済大)のペースメーカー役として参加しながら、23キロ付近で弟を振り落としたことに気付かず快走。30キロ以降は尻上がりにペースを上げ、2時間22分38秒の記録で2位以下をぶっちぎった。2月の東京に敗れロンドン行きは逃したが、13年世界選手権(モスクワ)に向け、川内らしく、スタートを切った。

 川内がゴーイング・マイウエーを貫いた。中継車から届く情報が、実況アナウンスとして競技場内に響いた。「38キロ、川内優輝選手が独走です!」。その後も聞こえてくるのは「川内」ばかり。トラックに姿を現すと、100メートル走のような猛ダッシュでテープを切った。月桂(げっけい)樹をかぶせられるとファンの声援に両手を上げて応える。2位に2分21秒の大差をつけての優勝だ。ところで、弟のペースメーカーだったのではなかったのか…。

 川内

 途中で後ろを振り返ったらいなくなっていた。こうなったら、ほかの市民ランナーの方々を引っ張り、みんなに2時間30分を切ってもらおうと思った。

 この日は、弟に12月の福岡国際の参加A標準記録(2時間27分以内)を突破させるため、1キロ3分25秒ペースの2時間25分を設定。アシスト役に徹したはず?

 が、走りだすと川内は川内。鴻輝によると、23キロ付近で振り落とされ、その後、川内は前を走る米国人選手を追ったという。25キロまでの5キロラップは17分10秒台だったが、以降は16分48秒、16分48秒、16分10秒とペースアップ。走り終えると、弟はいなかったかのように「いい練習になったし、気持ちよかった」。

 昨年は釧路湿原(30キロ)、金沢百万石ロード(ハーフ)での優勝経験はあるが、フルマラソンとなれば初優勝だ。川内は「自己最悪の記録ですけど、初優勝はうれしい」。一方で鴻輝は2時間28分36秒(7位)となり、兄弟での福岡国際出場はかなわなかったが「最低限、猫ひろしさんの記録(2時間30分26秒)を超えたのはよかった」とさらり。また、「株式会社・藤原新」を設立した藤原について「僕は(公務員なので)対極にいる。株式会社に関われませんから」と、旬の話題に口もさえわたった。

 東京で14位と敗れ、それ以来のレース。2万人以上が参加した市民大会で、ファンの注目を一身に浴びた。「福岡で2時間7分台を出します」と宣言。ロンドンの夢破れたが、次なるモスクワへ、再び川内劇場が幕を開けた。【佐藤隆志】