<陸上:日本選手権>◇最終日◇10日◇大阪・長居陸上競技場

 女子やり投げの海老原有希(26=スズキ浜松AC)が、62メートル36の日本新記録で5度目の優勝を飾り、初の五輪切符を手にした。3投目に自身の持つ記録(61メートル56)を80センチ上回った。昨年の世界選手権(韓国・大邱)で女子投てき選手として日本人初の決勝進出(9位)を果たし、ロンドン五輪では60年ぶり入賞が見えてきた。大会最優秀選手は男子がやり投げのディーン元気(20=早大)、女子は海老原が選ばれた。

 前日の男子やり投げに負けず、海老原が自己記録を伸ばした。3投目。スピードに乗った助走から勢いよくやりを放つ。低く鋭い弾道。60メートルラインを突破し、さらに日本記録ラインも超えた。62メートル36。右手でガッツポーズをつくったが、ポーカーフェースを崩さなかった。4投目に60メートル25、6投目にも60メートル54と大台を連発。2位以下に3メートル以上の差をつけての圧勝だった。

 昨年の世界選手権9位。勝って当然とみられがちだが、優勝インタビューでは涙があふれた。「去年のことがあったので、勝ちたい気持ちでいっぱいだった。あの悔しさは忘れなかった」。昨年の大会。最終6投目で宮下に逆転され、5連覇を逃した。その「弱気の虫」に打ち勝ち、日本記録を持ってのロンドン切符が、何よりうれしかった。

 同じチームの先輩・村上幸史の存在が、大きな励みだ。前日はディーンと村上の一騎打ちをテレビ観戦。自己記録を更新する姿に「負けた中にも強さがあった」。試合前には、その村上とがっちり握手を交わし、刺激をもらった。互いに切磋琢磨(せっさたくま)する仲で「合宿でも積極的に引っ張ってくれる。近くにいてありがたい存在」。「女ムラカミ」と呼ばれることに「光栄です」と即答した。

 昨年の世界選手権では、日本人女性として投てき種目で初の決勝進出を果たした。今回の五輪では、もう1つ上の入賞に挑む。世界的にみれば、164センチという小柄。世界と戦うために、助走スピードに磨きをかけ、全身の瞬発力をヤリに伝える技術が鍵となる。「速い中でも余裕を持った走りができている。記録はもっと伸ばせると思うので、努力したい」と手応えは十分だ。誰もが認める練習の虫。女子投てき選手として60年ぶりの8位入賞が、海老原の視界に入った。【佐藤隆志】

 ◆海老原有希(えびはら・ゆき)1985年(昭60)10月28日、栃木県河内郡上三川町生まれ。真岡女子高入学後にやり投げを始め、高2でインターハイ2位、3年で高校歴代4位の50メートル98。インターハイの7種競技で優勝。国士舘大1年で世界ジュニア5位。08年スズキ入社。10年の広州アジア大会で自己ベスト61メートル56を記録し金メダル。昨年の世界選手権は9位。164センチ、68キロ。

 ◆日本女子の投てき入賞

 五輪では過去5人いる。1932年ロサンゼルス大会の真保正子(やり投げ4位)、36年ベルリン大会の中村コウ(円盤投げ4位)峯島秀(円盤投げ5位)山本定子(やり投げ5位)、そして52年ヘルシンキ大会の吉野トヨ子(円盤投げ4位)。今回のロンドンで海老原が入賞すれば、60年ぶりの快挙となる。