雨ニモマケズ-。陸上男子ハンマー投げの室伏広治(37=ミズノ)が、五輪2度目の金メダルへ「足固め」に入った。スポーツ用具メーカーのミズノは27日、都内で室伏が五輪で使用する新シューズを発表。雨の多いロンドン対策として、室伏自身のアイデアをもとに競技人生初の「雨天用シューズ」が完成した。その機能は、水をはねのける「ワイパー」の原理。ぬれたハンマーサークルでの高速回転も可能となり、ロンドンの頂点へ、鉄人の視界は一気に広がった。

 鉄人のこだわりが、形となった。ロンドンは雨が多い。年間降雨日数は、東京の106日に対し、ロンドンは167日。そこで勝つには、雨を制する必要がある。室伏から要望が出たのが昨年12月。さまざまなアイデアをもとに、ミズノ社が開発に着手した。雨天用として11種類ものサンプルがつくられ、その中から1つを採用。その機能は、車好きの室伏ならではの「ワイパー」だった。

 ハンマーを投げる上で、路面の水こそ「大敵」となる。水をどう排除するかが大命題。同社グローバルウエアプロダクト部開発課の岸本諭氏は「ソールを柔らかくして弾力性を上げた。サークルで回転中にワイパーのように水をかきわけ、接地面積を確保できる」と説明する。さらにソール素材の粘性を高めることで、グリップ力を強めた。

 その形状が面白い。丸みを帯びたかまぼこ状の「ラウンドソール」。そこに室伏ならではの知恵がある。筋力に頼った海外選手とは異なり、37歳・室伏の生命線は「回転運動」だ。狭い足裏の接地での職人技。よりスムーズにするため、ソール形状を一般的なフラットでなく、かまぼこ状にした。不安定極まりない形状ゆえに、世界でも履きこなせる選手は見当たらない。まさに「室伏オリジナル」だ。

 雨には苦い記憶がある。03年の世界選手権前、雨天の練習中に滑り、負傷。今月の日本選手権も雨にたたられ、故障を避けるため「安全運転」の72メートル85止まり。「雨でも不安なく全力で投げたい」。競技人生初の雨天用シューズの開発は、室伏にとって必然だった。ロンドンには、ソールの硬度を変えた雨天用シューズを4種類、そして晴れ用シューズも4種類準備する。路面、気候条件に応じて使い分け、1投ごとに足回りを替える「ピットイン」戦略も可能になった。

 雨を制する者がロンドンを制す-。五輪2度目の金メダルへ、鉄人の足元が固まった。【佐藤隆志】

 ◆水を排除する構造

 室伏の五輪シューズは、サークル面がツルツルの場合、ザラザラの場合を想定し、ソール面も2種類で準備した。サークル面がツルツルならソール面はザラザラ。逆にサークル面がザラザラならソール面はツルツルに変える。水を凹凸部分に押しやり、接地面積を大きくすることでグリップ力を高める。ただしグリップ力が強すぎても回転運動を妨げるため、最適値で開発しているという。