男子マラソンで来年8月の世界選手権(モスクワ)出場を狙う公務員ランナー・川内優輝(25=埼玉県庁)が「1泊4日のエジプト弾丸ツアー」を敢行する。エジプト国際マラソン(来年1月18日)の招待選手会見が25日、川内が勤務する埼玉・春日部高校で行われ、前代未聞の仰天プランが明らかになった。大会2日後の1月20日に開催される埼玉県駅伝競走大会に出場するため、16日夜に成田を出発し、19日夕に帰国する超強行軍。日本の枠を跳び越え、今度は世界をまたにかけた「常識破り」に挑む。

 20回目の節目を迎えるエジプト国際マラソン。その招待選手として、川内に白羽の矢が立てられた。日本人として7回大会の中山竹通以来の参加。「僕もエジプトで20回目のマラソン挑戦になる。大会記録(2時間22分32秒)を破り優勝したい」。そこまではごく普通の会見だった。だがレース後の懇親パーティーに話題が移ると、前代未聞の挑戦が明らかになった。

 主催者

 川内さんはレース当日に帰るので出席できません。20日に埼玉駅伝があり、参加するそうです。

 仰天の旅程はこうだ。16日午後8時50分の便で成田空港を出発し、17日午前3時50分にカイロ到着。その後、会場となる世界遺産の地・ルクソールへ移動し、翌18日の午前7時にレース開始。あわただしく同夜11時20分の便でカイロから帰途につく。エジプト滞在は丸2日に満たない43時間30分。片道14時間の機中2泊という1泊4日の「弾丸ツアー」だ。移動距離2万キロ。しかも帰国から約14時間後には、埼玉県駅伝競走大会がスタートする。

 その埼玉駅伝は80回目の記念大会。県庁のエースとして、参加はもはや「公務」みたいなもの。強行軍というより、むちゃくちゃな状況だが、それでも川内は「タイトですけど、そういう状況に勝てばもっと強くなれる」。さらに「エジプトはお茶の消費量が世界有数。埼玉にも『味の狭山茶』があるので、それを持って行ってアピールしたい。どうアピールするかは、県と相談します」。二足のわらじをはく、公務員としての顔まで強調した。

 2月の東京で惨敗。ロンドン五輪出場こそ逃したが、今季の川内は強い。東京後のフルマラソンは5戦3勝。今月16日のシドニーでは海外初優勝を収めた。先週末の記録会では1500メートル、5000メートルともに自己記録を更新。「マラソン練習で自然とスピードがついた」と言う。来月6日には世界ハーフマラソン(ブルガリア)に日本代表として出場。そして世界選手権出場をかけ、12月の福岡で「2時間7分台」に挑む。

 勢い止まらぬ男は「日本選手があまり海外に出て行かない現状を変えたい。常識を崩す挑戦です」。これまでも中1週でフルマラソンを連続して走るなど、次々と常識を覆した。そんな川内はエジプトでのレース後に観光を予定し、「ツタンカーメンの墓を見たい」。世界的なミステリー伝説に負けぬ、新たな川内伝説ができあがった。【佐藤隆志】

 ◆川内優輝(かわうち・ゆうき)1987年(昭62)3月5日、東京都世田谷区生まれ。埼玉・鷺宮中-春日部東高-学習院大。大学時代は学連選抜で2度、箱根駅伝に出場。09年4月に埼玉県庁に入庁し、公務員の傍らマラソン。11年2月の東京マラソンで2時間8分37秒(自己ベスト)の3位となり、世界選手権切符を獲得。11年9月の世界選手権18位で、日本の団体銀メダルに貢献。175センチ、62キロ。家族は母、弟2人。