<陸上:第4回横浜国際女子マラソン>◇18日◇山下公園前・産業貿易センター前スタート山下公園内フィニッシュ◇気温16・5度、湿度41%、北の風5・8メートル(正午)◇日刊スポーツ新聞社後援

 小出門下15年の那須川瑞穂(32=ユニバーサルエンターテインメント)が2時間26分42秒で日本人トップの2位に入り、来夏の世界選手権(モスクワ)代表候補に名乗りを上げた。代表決定の選考基準(2時間23分59秒以内)には及ばなかったものの、伊藤舞(大塚製薬)とのラスト勝負を制した。合宿中に子牛1頭分は平らげ筋力をつけた那須川が、浜風に耐えた。リディア・チェロメイ(ケニア)が2時間23分7秒の大会新記録で優勝した。

 あれは特別速いペースメーカーなんだ-。15キロ過ぎで集団から飛び出したチェロメイの姿が、小さく消えていく。那須川に焦りはなかった。世界陸上の代表は5人。タイムを狙い崩れるより、優先するのはリスク回避の順位。「行くな!」という、指導を受ける佐倉アスリート倶楽部・小出義雄代表の声も飛んだ。中里が落ち、赤羽が脱落する。外国人2人は眼中にない。伊藤との一騎打ち。37キロのスパートは不発、二の矢の39キロに再び仕掛け、日本人トップでテープを切った。

 ゴール後、小出代表の首にメダル形のチョコレートをかけた。「ただのじいさんじゃない、世界の花咲かじいさんにしよう」と昨年から胸に刻んできた。チョコは、今年7月から4カ月間の米国ボルダー合宿から帰国する間際の土産店で買った。「『1』と書いてあったので願掛けもかけて買いました。いつもは1カ月分の練習メニューしか作らない監督が、4カ月分もつくってくれた。監督も自分も信じて迷いなくここまでやってこられました」。有森、鈴木、高橋と世界のメダリストを育てた73歳は「10年たって(代表を)1人も出せないと忘れられちゃうからな」。積水化学時代から指導する那須川に、目を細めた。

 その米国合宿では、タンパク質の摂取で筋肉の量、質を変えた。3食で必ず鶏肉、豚肉、牛肉を摂取。栄養士からは牛肉なら子牛1頭分は食べたと言われた。筋繊維が太く、しなやかになり「内臓が元気になると練習後の疲労回復も20代より早くなった」と那須川。もちろん練習は小出流の過酷さ。毎週末の40キロ走も歯を食いしばって耐えた。「レース中に足が接触するだけでイライラする」と自己分析する精神力の不安定さも、トライした写経などで克服した。

 ベテランの域に入ったが「遅咲き」も悪くはないと感じている。「マラソンを通じて自分自身が豊かになってきた。五輪が全てじゃないとも思うし、まずは自分の殻を破って成長すること」。来年4月に届くかもしれないモスクワ行きの吉報を、静かに待つ。【渡辺佳彦】

 ◆那須川瑞穂(なすかわ・みずほ)1979年(昭54)11月22日、岩手県奥州市(旧水沢市)生まれ。岩手・水沢南中1年で陸上を始める。花巻南高を経て、積水化学入社。以来、佐倉アスリート倶楽部、現在のユニバーサルエンターテインメントと小出義雄氏の指導を受けてきた。初マラソンとなった04年1月の大阪国際女子で4位。09年3月東京マラソンで優勝。ロンドン五輪選考会となった今年3月の名古屋ウィメンズは12位で出場権を逃した。164センチ、45キロ。