マラソン界のスーパースター、瀬古利彦氏(56)が駅伝に戻ってくる。3月いっぱいで廃部する名門エスビー食品陸上部の受け入れ先が7日、プロ野球ベイスターズを保有するディー・エヌ・エー(DeNA)に決まったことが分かった。瀬古氏らエスビー食品のスタッフ、選手計12人の移籍が10日に発表される。同社は駅伝にも本格進出する構想で、来年1月1日の実業団駅伝で瀬古氏の「エスビー魂」が復活しそうだ。

 陸上界では異例のチーム丸ごと移籍のカギとなったのは、駅伝への再挑戦だった。エスビー食品が経営合理化のため陸上部の廃部を決めたのは昨年8月。スポーツ推進局長の瀬古氏は受け入れ先を模索し、条件として「選手とスタッフ12人の移籍」をあげた。個人競技の陸上でチームの移籍は異例だが、駅伝ならチームが必要。駅伝に挑戦することが移籍の条件になった。

 瀬古氏が現役だった80年代、エスビー食品は圧倒的な強さで実業団駅伝4連覇を果たした。しかし、マラソンなど個人の強化を優先したことからチームは弱体化。01年以降は大会に参加することすらなかった。それが、チームの移籍にともなって方針を変更。もともと瀬古氏は「駅伝をステップにマラソンで世界と戦いたい」という思いで、再挑戦の機会を探っていた。

 企業名がクローズアップされる駅伝参加は、受け入れ先となるDeNAにとってもメリットが大きい。ソーシャルゲーム大手として急成長した同社は、昨年プロ野球に参入。さらに、新たなスポーツビジネスを模索していた。DeNAで実業団駅伝に参加すれば、話題性も十分。総監督に就任する予定の瀬古氏が陣頭指揮をとれば、企業のイメージアップにも直結する。

 現在エスビー食品の選手は08年北京五輪長距離代表の竹沢健介(26)ら6人。7区ある実業団駅伝に出場するためには、選手補強が必要になる。今春卒業する有力選手の就職先はほぼ決まっているが、短期間に瀬古氏を中心に「隠れた逸材」の獲得に乗り出す。

 エスビー食品はこの日、ホームページに「決まり次第、公表させていただく予定です」とだけ掲載し、瀬古氏も「何も話せない」と口を閉ざした。それでも、10日の正式発表に向けて準備は進む。来年元日、瀬古氏率いるDeNA陸上部が「エスビー魂」を胸に実業団駅伝に戻ってくる。

 ◆実業団陸上部の移籍

 各企業の経営状態悪化から00年代に入って実業団陸上部の廃部が続出。沖電気や日産自動車(休部)、ダイエーなど名門チームが、次々と姿を消した。所属選手らは受け入れ先を探すが、スタッフを含めたチーム丸ごとの移籍となるとアテネ五輪女子マラソン金の野口みずきが所属したグローバリーがシスメックスに、埼玉りそな銀行がしまむらに移ったぐらい。多くは有力選手を中心とした個人の移籍で、移籍先がなく引退する選手も少なくない。

 ◆全日本実業団駅伝

 1957年(昭32)に始まった実業団駅伝日本一を決める大会。88年から1月1日開催が固定化し、通称「ニューイヤー駅伝」と呼ばれる。コースは群馬県庁をスタート、ゴールとし、7区間100キロ。毎年11月の東日本実業団など秋に行われる各地の予選会を通過した37チームが出場する。最多優勝は旭化成の21回、コニカミノルタ(含コニカ)の7回、エスビー食品とカネボウの4回が続く。