<陸上:日本選手権兼アジア大会代表選考会>◇最終日◇8日◇福島市とうほう・みんなのスタジアム◇男子100メートル決勝ほか

 男子100メートルで桐生祥秀(18=東洋大)が、平成以降最年少となる18歳5カ月で初優勝を飾った。向かい風0・5メートルの準決勝を10秒21で突破。雨が降る追い風0・6メートルの決勝は昨年敗れた山県亮太(21=慶大)を60メートル付近で逆転して10秒22でゴール。9秒台は持ち越しも、初の日本王者に輝いた。レース後は目標に大会10連覇を宣言。次の照準は世界ジュニア選手権(7月、米国)での金メダルだ。

 復興に向かう福島の地で、雨を切り裂いた。スタートで出遅れた桐生は60メートル付近でトップに立った。ピタリ追走する左隣の山県にリズムを乱されずにゴールした。ちょうど1年前に「離れていて無理かもと、心でも負けた」と言ったライバルを逆転。「優勝したかった。山県さんがどれだけ前でも勝ちたいと思った。去年とは違う」。平成以降最年少の日本チャンピオンが誕生した。

 笑顔の裏に、苦悩があった。昨年4月に10秒01を出したが、その記録が更新できない。「どうして記録が伸びないのか、焦りもあった」。15歳で陸上を始めて記録が半年以上も停滞したのは初めてだった。昨年12月、目新しい練習法に引き寄せられた。「骨ストレッチ」と題するもの。「速く走るひけつは筋肉ではなくて骨」「チーターのように走る」-。日本の古武術に通じるという型破りな内容にひかれて、月1回の秘密特訓を行うようになった。

 4月29日、織田記念国際。予選の10秒10で、右太もも裏を痛めた。昨年は50レース近くを完走も、わずか100メートル1本で筋肉が悲鳴を上げた。問題のレースは歩数が49歩で、通常よりも2歩多かった。新しい試みが裏目に出た形だった。

 負傷直後の5月上旬、京都・西京極を訪れて後輩の試合を観戦した。地道に汗を流して基礎を固めた3年間を思い出した。80メートルしか走路がとれない土の校庭でミニハードル、シャトルラン、胃液を吐くような厳しい冬季合宿…。「もうやめる」。骨ストレッチと決別して、高校時代の練習に原点回帰。土江コーチと一緒に鉄パイプを加工し、約50個のミニハードルを作った。

 現在、100メートルの歩数は48歩。本来の47歩に戻りつつある。初の日本一に「連覇したい。できるところまで。金丸さんぐらいまで続けていきたい」と、男子400メートルで10連覇した金丸を目標にした。日本王者となった「ジェット桐生」が次は真夏の世界ジュニア選手権に向かう。【益田一弘】

 ◆陸上日本選手権男子100メートル年少優勝

 桐生が今回優勝するまでは、平成以降は05年の佐分(さぶり)慎弥(当時日体大1年)の19歳2日が記録だった。初出場ながら決勝で第一人者の朝原を破って10秒40でサプライズ優勝した。