<競泳:日本選手権>◇3日目◇18日◇静岡・浜松市総合水泳場

 元祖美女スイマーが、北京五輪代表落ちのどん底から完全復活を遂げた。女子50メートル背泳ぎ決勝で、アテネ五輪代表の寺川綾(24=ミズノ)が、世界新に残り0秒11と迫る27秒78の日本新をマークし初優勝。派遣標準記録を突破し世界選手権代表を当確とした。寺川は前日の100メートルと合わせて2冠となった。この日、タイ記録を含む11個の日本記録が誕生し、3日間で20個の日本記録が生まれる好記録ラッシュとなった。

 寺川の胸に、うれしさと同時に悔しさがこみ上げた。前日の100メートルでは感激の涙だった。この日は優勝にも「昨日とは違う感情で泣きそう」。世界新にわずか0秒11及ばなかったことを悔やんだ。世界新を狙う気持ちになれるほど、寺川には自信が戻ってきた。

 スタートから15メートル。頭1つリードして、寺川の青いキャップがバサロ泳法から浮かび上がった。隣の5コースには、2月の短水路で100メートルの世界新を出した18歳の酒井がいた。それでも「スピード、スピードで練習をやってきた。自信を持って挑めた」と、100メートルに続き、若さを経験で押さえ込んだ。

 近大付高2年の01年福岡世界水泳で初の代表入り。アテネ五輪代表も手にし、その容姿から同種目の伊藤華英とともに美女コンビとして脚光を浴びた。「常に周囲の目ばかりが気になった。泳いでても集中できなかった」。重圧からか、北京五輪代表選考のかかった昨年の日本選手権では中村礼子、伊藤に敗れて代表を逃した。

 一時は「ふさぎ込んで泣いたことも多かった」という。昨年の後半は、いくつかのクラブを転々とし、コーチも決まらなかった。ようやく12月に北島を指導した平井伯昌コーチの下にたどり着き、門下生となった。「自分の能力を信じることを教えてもらった」。今年1月に50メートル、100メートルの両種目で自己ベストを更新。眠っていた才能が、よみがえった。

 100メートルは日本新を逃したが自己ベストで優勝し、この日の50メートルで2冠達成だ。「たくさんの人に迷惑をかけてきた。感謝しています」。どん底から華麗な復活劇を見せ、笑顔が美しく輝いた。【吉松忠弘】