<体操:全日本選手権兼ロンドン五輪代表第2次選考会>◇最終日◇8日◇東京・国立代々木競技場

 体操界のヒロイン、田中理恵(24=日体大研究員)が最初で最後の日本一に輝いた。最終日の得点だけで争われた全日本タイトルを、武器のミスのない安定した演技で、2位の笹田夏実に2点の大差をつける快勝だった。初日の予選も首位で、この日と合わせた合計点での五輪代表選考レースでもトップをばく進中。競技人生最後の試合と明言しているロンドン五輪の代表に向け、大きく前進した。

 初めて震えるほど緊張した。2日間の大トリを飾る床運動の最終演技者で、田中は自分の胸の高鳴りを聞いた。「この緊張感に勝ったら、もっとすごくなれる」。自分に言い聞かせ、フロアに飛び出た。最後の屈身ダブルが着地すると「本当にうれしい」と、全日本タイトルを24歳で初めて手にした。

 最近の低年齢化が進む女子体操界では、異例の年長優勝だ。平成以降では、99年の菅原リサの22歳を抜いて最年長となる。しかし、「わたしももう24歳。大きなチャレンジはできないが、(武器の)安定感をぶつけてやろう」と、初日からほぼノーミスの演技で、大人の体操を演じきった。

 今大会、得点源に変身した床運動の「ピンクパンサー」は、日体大の瀬尾京子コーチが、田中のために温めてきた曲だ。瀬尾コーチは、新入生で入ってきた田中を見て、すぐにピンクパンサーが浮かんだという。「動きのイメージが合っていた」。しかし、演じるには時期尚早と見ていた。今回「ようやく演じられる大人になった」と、2人の7年越しの思いが実った。

 今大会と5月のNHK杯を合わせ、4日間の合計得点で争う五輪代表選考レースも、2位の寺本に3・650点の大差をつけた。代表は5人。現在、6位の飯塚とは4・850点と大差。自身初の五輪代表はほぼ当確だ。「ここは通過点。一番はロンドン五輪でいい演技をすること」。

 2009年のNHK杯初日。まったく無名だった田中が2位発進で注目を浴びた。それから、わずか3年で、実力と容姿を兼ねたヒロインに躍り出た。「五輪を目指すなんて思ってもいなかった」。それが現実となって、今、目の前にある。「ロンドン五輪が最後」と明言している競技人生。全日本女王として最後の花は、必ず咲かせてみせる。【吉松忠弘】