<柔道:全日本選抜体重別選手権>◇最終日◇13日◇福岡国際センター

 ポスト谷亮子は福見が射止めた!

 柔道ロンドン五輪代表が決まり、女子48キロ級は2年ぶり4度目の優勝を果たした福見友子(26=了徳寺学園職)に決まった。最有力だった世界選手権2連覇の浅見八瑠奈(24)が初戦で敗れる中、気迫を前面に出した柔道で優勝。大会後の強化委員会で最も意見が分かれた中で、逆転選出。世界でただ1人、谷を2度破ったことがある女柔道家が、悲願の五輪初切符を手に入れた。

 10年前を、福見は思い出していた。五輪代表が一堂に会した会見。無数のフラッシュを浴びながら、あの日が脳裏をよぎった。02年4月。16歳の高校2年で出場したこの福岡で、無敵の女王だった谷(当時田村)の連勝を「65」で止めた。栄光と挫折のすべてが始まった日。「初めて谷さんに勝ったときの感じでした。すごく遠回りしたけど、それも自分らしいかな」。やっと、心から笑えた。

 大逆転で切符をつかんだ。立場は浅見の次。負けた時点ですべてが終わる。「緊張しました。でも、それも楽しくて」。くぐり抜けた修羅場の数だけ、心は強かった。開始17秒で技ありを奪うなど圧倒した初戦。準決勝は、昨年敗れた山岸を横四方固めで仕留めた。

 迎えた決勝は、浅見を破ってきた岡本。技は決まらなかったが、動いて攻め続けた。昨年世界選手権で浅見に敗れ、1度は終わりかけた五輪の夢。だが「あのまま終わるのは悲しい」。昨年末、初めてコーチを専属でつけて、技を見直した。相手を受け止めようとしているクセに気づき「動くこと」を心に決めた。それが、1月のマスターズからの反攻。そして、決勝の攻めにつながった。

 最後の判定で、上がった旗は3本とも福見。「自分を超えられた」と涙ぐんだ。強化委員会では意見が割れ、浅見を推す声もあった。だが「浅見は重圧の中、試合でなく己に負けた。福見は崖っぷちから優勝した」と吉村強化委員長。心の強さが、すべてだった。

 「自分の柔道人生は、福岡でいろいろある。終わるのも変えるのも、福岡がふさわしい」。02年。谷を破ると、柔道好きの少女は一夜で有名になった。ひっきりなしにメディアが殺到。「家から学校まで見られている気がする」と、心が病んだ。体に力が入らず、高校生にも勝てなくなった。

 07年の福岡で再び谷を破って優勝した。だが、実績が足りず、世界選手権代表に選ばれたのは谷。世界を経験できず、翌年の北京五輪も逃した。何度も試練を与えられた因縁の場所。そこで、やっと夢をつかんだ。ポスト谷の声はある。ただ「自分自身の人生だし初出場なので、今は『この五輪で勝ちたい』。その気持ちだけです。金メダルを取って、終わりたい」。柔道人生の最初で最後の大舞台に、思いをはせた。【今村健人】