<レスリング:女子国別対抗戦W杯>◇27日◇東京・代々木第2体育館

 悪夢再び-。ロンドン五輪55キロ級代表の吉田沙保里

 (29=ALSOK)が、またW杯で敗れた。決勝のロシア戦で、19歳のワレリア・ジョロボワに1-2で逆転負けした。119連勝で止まった08年W杯の敗戦から、再び続けていた連勝記録は「58」でストップ。日本女子初の3連覇に挑む五輪前に、出直しを迫られた。日本はロシアに5-2で勝ち、06年大会以来6年ぶりの優勝を果たした。

 4年前と、まったく同じ光景だった。悔しさや屈辱、ショック-。吉田はあらゆる負の感情を、消化できなかった。マットに両膝をついてぼうぜんとした。ベンチに戻ると、タオルをかぶり、いつまでも泣き続けた。表彰式でも涙は止まらなかった。08年1月19日の敗戦以来、1590日ぶりにW杯で再び起こった悪夢。「五輪を控えているのに、ここで勝てなかったら、ロンドンでどうなるのかという思いもあります」。声をしぼり出して答えた。

 相手は無名の19歳だが、1階級上の59キロ級ロシア女王。そこに不安があった。W杯は階級リミットより2キロ増まで許され、さらに計量から2日。通常でも56キロしかない吉田との差は5キロ前後あったとみられる。その中で、1-0で迎えた第2ピリオド(P)は残り3秒。タックルで押し込みながら、場外すれすれでうっちゃられた。最終Pも残り31秒でタックルに入るも、腰が高く体を入れ替えられて外に出された。最後の捨て身の大技も返されて、万事休す。屈辱の逆転負けだった。

 迷いも、力を奪った。五輪に向けて、従来の離れた距離からのタックルを、近距離用に改良してきた。だが「返されるんじゃないかと見えないブレーキがあって、入る勇気がなかった」と吉田。4年前はタックルを返されて敗れた。そのトラウマ(心的外傷)は、体重差以上に得意技の威力を損ねていた。栄監督も「思い切ったタックルじゃなくなっている」と指摘した。

 08年はW杯で敗れながら、北京五輪で2連覇を果たした。ただ、当時は本番まで7カ月あった。今回は2カ月しかない。五輪3連覇にともった黄信号。栄監督は「五輪まで、レスリングしか考えられない生活をしてほしい。恋愛禁止。『あの人いいな』も禁止」と叫んだ。吉田は「(負けが)ロンドン前で良かったけど、3連覇しないと意味がない。うれし涙に変えられるようにしたい」と言った。険しい試練が、再び吉田を襲った。【今村健人】