<柔道:グランドスラム東京2014>◇第2日◇6日◇東京体育館◇男子73キロ級

 元世界王者が、崖っぷちからはい上がった。10年世界選手権金メダルの秋本啓之(28=了徳寺学園職)が3年ぶりに優勝。決勝で13年世界王者の大野将平(22)を下し、16年リオデジャネイロ五輪の代表争いに名乗りを上げた。相次ぐ負傷に苦しんできたが、家族の支えで復活のタイトルを手にした。

 秋本の執念が、力になった。決勝戦残り1分8秒、得意の背負いで大野の肩を畳につけると、そのまま強引に押し込んで有効を奪った。激しい組み手争いを制し、このポイントが効いて優勝。「夢中だった。(技は)とっさに出た」と、苦しい試合を振り返った。

 神奈川・桐蔭学園高時代に66キロの体で無差別級の高校王者になった天才。04年には世界ジュニアも制したが、五輪には無縁だった。08年北京大会を体調不良で逃し、12年ロンドン大会は負傷で届かなかった。「どうしても五輪に出たい」と現役を続けたが、次から次へと負傷に襲われた。

 支えになったのが、家族の存在だった。リハビリ施設で知り合ったロンドン五輪バレーボール銅メダリストの大友愛さん(32)と昨年結婚。大友さんの長女美空ちゃん(8)に加え、今年6月には長男心之介ちゃんが生まれた。「妻が支えてくれ、子供も原動力になっている」と話す。

 日本代表の「2番手」として出場した9月のアジア大会優勝に続くタイトル獲得にも「まだ崖っぷち。ようやく選考の中に入れてもらえるかなという感じ」と話した。今年の世界選手権を制しながら今大会を欠場した中矢力も含めた新旧世界王者の争いは、さらに激しさを増す。【荻島弘一】