<水泳世界選手権:競泳>◇28日◇上海

 女子50メートル背泳ぎ決勝で、寺川綾(26=ミズノ)が27秒93で銀メダルに輝いた。01年福岡大会に16歳で初めて世界選手権に出場してから10年。北京五輪出場を逃すなど紆余(うよ)曲折を経たベテランは、初めて世界のひのき舞台でメダルを獲得し、感涙に浸った。

 笑って、泣いて。にこやかにミックスゾーンへ入った寺川だったが、報道陣から声をかけられると、感情を抑えきれなかった。

 寺川

 1番じゃなくて、喜んではいけないと思うんですけど…。(電光掲示板の)自分の名前の横に3番以上の数字があったのを見て、優勝したくらいうれしかった。

 苦節10年。16歳の美少女スイマーとして01年世界選手権で代表デビューし、山あり谷ありの競泳人生だ。シドニー五輪銀メダルの中村真衣、同学年のライバル伊藤華英、五輪2大会連続銅メダルの中村礼子ら、女子背泳ぎは長らく日本の「最激戦区」だった。04年のアテネ五輪で8位入賞したが、その後はメダルどころか代表にも入れず苦しんだ。そして08年北京五輪の出場を逃したことで一念発起。故郷・大阪を離れ、北島康介を育てた平井伯昌コーチの門をたたいた。

 この日は練習の成果が出た。重点を置いたスタートとタッチ。そのスタート反応はトップの0秒53。その流れで最後のタッチまで、勢いを落とさず泳ぎ切った。自身の持つ日本記録には0秒20及ばなかったが、これまで届かなかった領域へ入った。平井コーチは「混戦でチャンスはあると思っていたが、まさか2番とは…。タッチが課題だったけど、神経を集中できた。01年の福岡から長い道のりだったね」と思いやった。

 感涙にむせびながらも、来年のロンドン五輪への課題も忘れなかった。メダルをつかんだ50メートルは非五輪種目。メーンの100メートルは今回5位に終わった。今後のテーマにスピード強化を掲げ、「100でしっかりメダルを取りたい。やっぱり100が良かった。今までのどの大会よりも悔しかったので、これを忘れずに」。紆余曲折を経て、少し見えた五輪の表彰台。大きな自信と誇りを得て、寺川の言葉にひときわ力がこもった。【佐藤隆志】