阪神が大勝で3位広島に1ゲーム差まで迫った。前日7日広島戦では今季16度目の完封負けを食らったが、この日は打線が6戦ぶりの2ケタ安打で8得点を奪った。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)は膠着(こうちゃく)状態を打破したポイントに着目。2番島田海吏外野手(26)のアイデアを絶賛した。【聞き手=佐井陽介】

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阪神の2番打者、島田選手のアイデアは非常に効果的でしたね。1点リードの6回表1死無走者、2ボールからセフティーバントを選択。三塁線に絶妙なゴロを転がしたところから、流れが一気に変わったように映りました。

タイガース打線は初回に先制点を奪った後、ヤクルト高梨投手を打ちあぐねていました。2回1死二塁から6回1死まで12者連続凡退。いくら大黒柱の青柳投手が投げていたとはいえ、あのままズルズルと追加点を奪えずにいると、重苦しい雰囲気に突入してもおかしくありませんでした。

そんなタイミングで、島田選手はアイデア1つで13打者ぶりの出塁に成功。さらに2度のけん制球をもらうなど足を警戒させたことで、次打者である3番近本選手の2ランを呼び込みました。勢いを吹き返した打線は7回、2番手柴田投手から一挙5得点。島田選手があのバントで膠着(こうちゃく)状態を打破していなければ、大量得点はなかったかもしれません。

結果論だけで言っている訳ではありません。あの場面、仮にアウトになっていたとしても、島田選手のアイデアには意味がありました。テンポ良く投げていた高梨投手をマウンドから降りて走らせる。さらに捕って投げさせる。余計な動きを増やしてリズムを崩す作業は、特に苦戦している状況では誰かにやってもらいたい役割でした。

あのロッテ佐々木朗希投手でさえ、ボテボテで難しいゴロの処理に手間取った後、調子を崩したゲームがありました。投手とはそれだけ繊細な生き物なのです。この日の島田選手は5回裏終了後、空気が一度緩んだ直後の6回表にセフティーバントを決めました。しかも強振してきそうなカウント2ボールから意表を突いた形。ヤクルトバッテリーに与えた動揺は決して小さくなかったはずです。

チームは前日7日に広島戦で今季16度目の完封負けを喫しました。ただ、島田選手のような発想をチーム全体に浸透させられれば、打線の不調時、相手投手の好調時も手をこまねくケースは減っていくでしょう。島田選手自身、三塁手がセフティーバントを警戒してポジションを前に取ってくれば、今度はヒットゾーンが広くなります。

打線全体、個人ともにマイナスな面は少ないのですから、これからも積極的にアイデアを具現化していってほしいものです。(日刊スポーツ評論家)