遊撃手は本当に30代中盤が限界ラインなのか? 日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)が月イチで野球界の話題を語る「鳥谷スペシャル」。今回は「遊撃手の寿命」について持論を展開した。常に激しい運動量が必要とされる過酷なポジションだが、鳥谷氏は自身の経験を元に「40歳でもショートは守れる」と強調。巨人坂本勇人内野手(33)に「限界年齢のイメージを引き上げてほしい」と期待した。【聞き手=佐井陽介】

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今年は巨人坂本選手の存在感がどれだけ大きいのか、あらためて実感させられるシーズンとなっています。負傷離脱が重なり、現在は腰痛でリハビリ中。33歳となった今も、やはりショート坂本選手の穴を埋めるのは並大抵の作業ではありません。打って走って守れる遊撃手にどれだけ価値があるのか、誰もが再認識したのではないでしょうか。

ショートは他と比べても激しい運動量を求められるポジション。過去のケースを思い返しても、ベテランと呼ばれる年齢に入ってくると、どうしても世間の一部から限界説のような声がチラホラ聞こえてくるものです。ただ、個人的には限界かどうかは周りが決めることではないと考えます。総合的にその選手を超える遊撃手が現れるか否か。判断基準はそれ以上でも以下でもないように感じます。

坂本選手の場合、20~30本塁打を打てて守れる遊撃手が若手で台頭してくれば、コンバートもありかもしれません。ただ、そんな選手は簡単には現れません。巨人の現状を見れば、三塁には岡本和真選手がいる。一塁にも中田選手らがいる。坂本選手がショートで出続けることでどれだけチームが助かるのかは、わざわざ説明するまでもありません。

もちろん、本人が守っていて故障につながる、打つ方に影響すると感じ始めた時は、ショートを離れるタイミングかもしれません。ただ、そんな事情がない限り、年齢は判断基準にはならないと考えます。極端な話、もしいずれ坂本選手の力が落ちたとしても、他の選手の120%が坂本選手の80%にかなわないのであれば、坂本選手がショートで出続けた方がチームにメリットがあるのですから。

年齢を重ねれば当然、自分が1番動けていた時よりも動けなくはなります。ただ、この誤差は経験値である程度はカバーできます。飛んできそうな方向に1歩分守備位置を変えたり、1歩早くスタートを切ることで勝負できます。今数値で表されるものは、守備位置からどれぐらい動けているか。数値では表せない能力も加味すれば、遊撃手の限界ラインもまた変わってくるのではないでしょうか。

ショートは本当に過酷で難しいポジションです。そこで長年生き抜いてきたプレーヤーの代わりはなかなか見つかりません。坂本選手にしても、まだまったく限界だとは感じないし、超える遊撃手も現れていない。本人がまだできると思っているうちはショートを続けてほしいものです。

自分は阪神入団時に「40歳でショート」を目標としました。この目標を達成するためには何をすべきかという生活を続けて、40歳シーズンの21年にロッテでショートを守りました。体力的な部分など難しい部分はいろいろ出てきますが、経験も踏まえれば、個人的には40歳でもショートは守れると感じています。

現状、30代中盤でショートを離れる選手が多く、そのあたりの年齢に差し掛かるとコンバートを指摘する声が一気に増え始めます。ただ、エンゼルス大谷選手の二刀流のように、誰かが壁を越えると、周りは不可能という言葉を使わなくなるものです。もし坂本選手が今後もずっとショートで結果を出し続ければ、限界をささやかれ始める年齢は上がっていくはずです。

もちろんチームの新陳代謝を考えれば、坂本選手の後継者づくりは欠かせない作業の1つに違いありません。それでも坂本選手にはまだまだ若手選手の最高の教材であってほしい。周りが言うショートの限界年齢イメージを引き上げてくれることを期待しています。(日刊スポーツ評論家)