阪神・淡路大震災から数年がたったころ、追悼の朗読会を取材した。女優の浅野ゆう子が神戸市を訪れ、被災地で人命救助にあたった警察官が書いた文を朗読。自宅が燃えた跡地で母親の遺骨を拾った中学生の女の子との対話を書いたものだった。

母1人子1人で住んでいたアパートが倒壊し、母親は下敷きに。ほどなく起きた火事から逃げることができなかった。火の手が迫り、握りしめていた娘の手を自ら離したという。ひとりぼっちになった女の子に、もっと親身になるべきだったと、警察官は悔やんだ。大震災の火事の話は、つらいものだった。

今年の1月17日、阪神高橋遥人投手(30)の野球教室を取材するため、神戸市長田区に行った。31年前、地域産業のゴム工場が密集していた長田区は、震災で発生した大火でで4759棟が全焼し、921人もの死者を出すなど壊滅的な打撃を受けた。JR新長田駅から会場の真陽小に向かって歩きながら、浅野の朗読を思い返した。

31年前のあの日から、どれほどの思いを込めて、どれほどの手をかけて、この町はここまで歩んできたのだろう。野球教室に参加した32人の子どもたちの目は、これから高橋に教えてもらえることへの期待感で輝いていた。六十四の瞳に応えるように、高橋はアップからキャッチボール、投球の際の体の使い方などを丁寧に指導。昼食後は教室に場所を移し、何度も手術を乗り越えてきた自身の経験などを伝えた。

楽しい時間を終えたあと、子どもたちへのメッセージを求められた高橋は「自分の育った町というのを好きでいてほしい。それをずっと持ってて欲しい」と答えた。復興へのたゆまぬ努力を続ける町で、自分たちは育っているのだと。言葉が輝いたような気がした。忘れられない1日になった。【堀まどか】

阪神自主トレを見学に訪れたタレントの松村邦洋氏(左)はファンの列に並んで阪神高橋と言葉をかわす(2026年1月撮影)
阪神自主トレを見学に訪れたタレントの松村邦洋氏(左)はファンの列に並んで阪神高橋と言葉をかわす(2026年1月撮影)