興南が100回大会で初戦を突破し、沖縄勢が節目の夏通算70勝に到達した。沖縄のレベルアップに貢献してきた大会は2つある。体力向上を目的にした1月の「野球部対抗競技会」。そして全国に先駆けて実施した「1年生大会」だ。

 この大会は10月下旬から11月まで、毎週末行われる。入学から下積みに励む1年生が実戦を経験することで、モチベーションを高める意味合いがある。昨年で42回を数えた。大会を続けるうちに、思わぬ副産物があった。いろいろと試せることで、選手の適材適所を把握できる大会になった。

 1つの例がある。興南から阪神に入団した左腕の仲田幸司は中学時代の軟式野球で、一塁や外野を守っていた。たまに打撃投手を務めれば、とんでもないところに投げる。コントロールが悪かった。

 当時の比屋根吉信監督は、入学直後に思った。「腕の振りが速すぎて、軟式球では制球がつかないのでは…。硬式なら、いいピッチャーになる」。投手として大きく育てることを決意。ひたすら、走り込みと腹筋、背筋をさせた。そして晩秋に行われる1年生大会は、格好のテストの場になった。アッと驚く好投を見せ、プロへの道が開けた。「すごいボールがいった。片りんが見えた大会。いいきっかけになったのは、事実です」と振り返る。

 今大会の興南にも、好例があった。4番の塚本は、もともと投手として入学した。4強入りした1年生大会では野手として出場し、力強い打撃を披露。ここから野手と投手を兼任し、肩を痛めた影響もあって今年から野手に専念。春から4本塁打を打つなど、主軸として貢献している。真栄田聡部長(55)は「大会には全員が出るので、急きょ、投手をしたり、投手だけど野手で出る選手もいる。いい活躍をして、その後、メンバー入りする選手もいる」と話す。中学3年生が観戦に訪れ、「今年はこっちの高校1年生のほうが強い選手がそろっている」と、進学の目安にすることもあるそうだ。

 今年も興南には1年生の西里颯内野手がベンチ入り。この日も3安打1打点の活躍を見せた。我喜屋優監督(68)は「去年は(投手の)宮城、今年は西里。興南には1、2年生でも誰でもいいよ、という伝統はある」と、常に能力のある1年生が台頭している。

 陸続きの他府県がない沖縄は、他の地域と違い、練習試合などの交流が難しい立地にある。島内で切磋琢磨(せっさたくま)するしかない。そこで2つの特徴的な大会が生まれた。貴重な人材を適材適所で大事に育成していく。ここ数年は有望な中学生の県外流出も多い。それでも沖縄には、選手を育てる創意工夫の土壌がある。【田口真一郎】