明らかなボールを振り、ストライクは見逃す。「見逃し三振は話にならない」と酷評された佐藤輝に、大変化の動きがあった。

7月10日のヤクルト戦(甲子園)。6回裏だった。大山、佐藤輝の連打で一、三塁のチャンスを迎えた。ここで野口の打球は三遊間に。大きく弾んだことで併殺はない。ヤクルト長岡はセカンドに投げた。これが微妙なプレーになった。佐藤輝の足が先に入ったか、それとも送球が速かったか。

審判の判定は「アウト」。ここで佐藤輝が大きな体を揺らし、一塁側ベンチにアピールした。両手を広げ「セーフ」を強調。監督に向け「ビデオ検証」を求めた。監督の岡田彰布もベンチを出て、検証を審判に要求した。

これまでの印象では、このようなプレーで佐藤輝が、自分を出すことはなかった。審判がアウトと判定すれば、首を傾げつつ、すぐに従っていた。それが珍しく、判定と逆のことを強くアピール。相当自信があったのだろう。岡田も佐藤輝の動きに思わず呼応し、ビデオ検証ということになった。

結果は判定通り。阪神はリクエストの権利を1回失うことになったが、バッティング以外での岡田-佐藤輝の連携は、見ている側にとって珍しい光景に映った。佐藤輝はどちらかといえば結果に対し、淡泊なイメージが強い。それが「覇気がない」とか「自分本位」とかの周囲の声になっていた。2軍に落ちた理由もそうだった。首脳陣がベンチの姿を見て、物足りなさを認め、打撃不振も含め降格を決めたという経緯があった。

それが変化していた。このアピールプレーに、浜風の影響でホームランにならなかった二塁打の時には、塁上で首を傾げていた。8回裏の打席では、レフトにうまくたたいたが、この時、浜風は弱まり、フェンス前で失速。佐藤輝は実に悔しげな顔でベンチに戻った。

前を打つ大山は常に献身的な動きで、高い評価を受けてきた。佐藤輝にはその部分が欠けている…とされてきた。それが自分のスタイルとばかりに、変えることはなかった。しかし、この日の彼の姿、動き、表情には明らかな変化があった。

2本のヒット、アウトになったけど、うまく対応したレフトへの飛球…。ようやく納得できるバッティングになってきた。そんな手応えがあるに違いない。フルスイングばかりではない。ミート重視のコンパクトな対応で結果が出ている。

「そんなん、入団から3年連続で20本やで。そんな選手はなかなかおらんよ。素直に当てたら、飛んでいく。それくらいのポテンシャルを、本人が意識できるかや。ボールは振らない。ストライクを振る。それだけのことやんか」。これは岡田が監督に就任した直後の佐藤輝評だった。ここにやっと気持ちの面が上積みされてきたか。佐藤輝自ら、岡田に検証を要求した。権利を1度失っても、岡田はうれしかっただろう。そしてこれまでにない感覚も得ていた。

野口のひたむきなプレーが共感を呼んでいる。「一生懸命に」の彼の言葉に触発されたか。このまま佐藤輝が変わっていけば…。【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)

佐藤輝明(2024年7月10日撮影)
佐藤輝明(2024年7月10日撮影)