阪神メッセンジャー(左)と鳥谷
阪神メッセンジャー(左)と鳥谷

「イーグルス」と言っても楽天ではない。71年にデビューした米国のロック・バンドだ。アメリカ西海岸を拠点にしながら世界的人気を誇った。50代以上、あるいは少しでも洋楽に興味がある人ならみんな知っている。そんなイーグルスの名曲に「ニュー・キッド・イン・タウン」がある。

きれいな曲だが歌詞は難しい。要するに「新しいヤツは常にやってくるぞ」という感じかなと勝手に思っている。どんな世界でも去るもの、来るものはある。変えられない定めだ。

引退を決めたランディ・メッセンジャーは米国人らしい選手だった。車高の低い爆音をまき散らすアメ車に乗っている。初めて見たとき「おお、アメリカン・マッスルカー。アイ・ライク・イット」と言うと「ミー・トゥー」と答えて風のように去っていった。

タクシーで後部座席に乗ると窓から手を出し、外側の取っ手でドアを開けていた。日本人にこんなことする人はあまりおらんよな、と妙に納得した。そんなメッセンジャーが現役を終えると決まった日、阪神はルーキーの安打で勝った。

新人安打記録を目指している近本光司だ。3回の先制適時打は決勝打になった。今季147安打目はミスターこと長嶋茂雄の153安打にまた近づいた。その近本、試合前、同僚の木浪聖也とともに三塁側ベンチ前で中日のある選手と話し込んでいた。

同記録でミスターに次ぐ149安打をマークしている京田陽太だ。3人はいずれも25歳世代。京田にすれば近本に新人安打数で抜かれるのはイヤなものだろうか。少し聞いてみた。

「全然、そんなことないですよ。そういう数字はいつかは抜かれていくものですから。足が速いから(内野安打警戒で)三遊間を締めるよ、打つなら中前だな、なんて言いました」

もちろんプロ同士、ジョーク交じりの雑談なのだが本当に中前打だったのには思わず笑ってしまった。記録は超えられていくものと分かっている京田はエラいなとも思った。

メッセンジャーが引退を決め、鳥谷敬の退団も決まっている。かつてのスターが去る。寂しい気もするが時の流れは止められない。レジェンドは偉大だが選手も超えられていく存在だ。先達を超える新たな顔が出てくること。強いチームには、やはり、それが必要だ。もっともっと出てこいと思う。(敬称略)

3回表阪神1死一、二塁、先制の中前適時打を放つ近本(撮影・上田博志)
3回表阪神1死一、二塁、先制の中前適時打を放つ近本(撮影・上田博志)