前橋育英(群馬)飯島大夢内野手(3年)が“右手1本”で本塁打を放ち、チームを勝利に導いた。5月の関東大会で死球を受け、左手首を骨折し、完治しないまま。かつての阪神金本をほうふつとさせる魂の一打だった。

 けがの影響を忘れさせる1発だった。6点リードの7回表、先頭打者として飯島にこの日5度目の打席が回ってきた。カウント2-2から内角高めの直球をフルスイング。打球はぐんぐん伸び、左中間スタンドに飛び込んだ。高校通算18号となる本塁打。「行っちゃったという感じ。甲子園という舞台で打ててうれしいです」と照れた。

 この日は1回表の先制打を含む3安打3打点の活躍。しかし群馬大会では、出場機会が限られた中、打点は0。主将として、4番打者として、もどかしかった。「ケガをして、チームに迷惑をかけてばかりだった」。激痛を抱えながらも、なんとか打開策を探した。

 7月上旬から甲子園に乗り込むまでは、試合や練習が終わるとチームを離れ、毎日約7時間をかけてリハビリに励んだ。初戦前日の8日に全体練習に合流すると、荒井直樹監督(52)からの助言でバットの握り方を変えた。普段は両手をつけてバットを握るが、指2本分の間を空けて握り、左手の負担を少なくした。飯島は「本塁打は、左手が使えないので、右手で押し込んで打つことができました。監督さんが一番喜んでくれていると思います」。

 左手の状態は「まだ骨がくっついていない。(群馬大会終了後)2週間休んで良くなっていると思ったんですが…」。スイングの度に左手全体がしびれる。本塁打を放った打席の2球目には、低めの変化球を空振りし、バットを地面に落として苦痛に顔をゆがめた。それでも「監督から『お前の存在が必要。グラウンドにお前がいるだけで違う』と言ってもらっているので、なんとしてでも出たい」と、出場を続ける。

 チームは昨夏大敗した初戦を12得点の猛攻で制した。飯島は「次の試合まで(痛みで)練習もできないと思う。今日みたいに打てたらいいけど、打てなくても気持ちや声の部分で引っ張っていきたいです」。鉄人のけん引する前橋育英が、4年ぶりの全国制覇に向け歩み始めた。【太田皐介】