今夏岩手大会準優勝の大船渡が延長10回、8-7で伊保内との激戦を制し、初戦を突破した。岩手決勝から51日。甲子園出場の花巻東に2-12の大敗を喫した岩手県営野球場で、再出発の1勝。6番から4番に昇格した吉田昂生内野手(2年)が4安打1打点で決勝ホームも踏めば、同決勝で2番手登板し貴重な経験を積んだ左腕・前川真斗投手(2年)も139球で完投し、雪辱の第1歩を記した。順当に勝ち進めば準々決勝で対戦する花巻東との再戦を懸け、16日の2回戦では水沢と対戦する。

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朗希さんたちから学んだ経験を生かします-。今夏決勝と同じ舞台で味わった屈辱も頭をよぎった。7-0のリードを守りきれず、延長突入。2年生唯一、先発出場していた吉田を中心に「まだ同点。落ち着こう」と何度もマウンドに集まって気持ちを一つにした。9回裏1死三塁のサヨナラ危機も脱した10回表。先頭の吉田が左前打で出塁すると、佐々木翔汰内野手(2年)の中犠飛で勝ち越した。吉田は「1個上の代は甲子園を目標に出来ましたけれど、自分たちはまだそのレベルではない。まずは県上位。夏につなげていきたい」。先輩を超えるために、基盤をしっかり作ることを強調した。

新チーム始動直後、佐々木が出場しないまま大敗したことに、多種多様な意見が寄せられた。決勝で7回から登板し、3回4安打3失点を喫した前川も「あの試合は良い思い出ではないし、ネットとかを見てしまって、つらい気持ちにもなった」。3年生の言葉がけに救われ、激励のLINEに背中を押された。最初は背番号1を背負う怖さも感じていたが「朗希さんは雲の上の存在。引き継ぐとかではなく、次のエースになりたい」。160センチ、60キロの小柄左腕は、花巻東打線から体感した教訓も生かし、緩急で10回139球を投げ抜いた。

国保陽平監督(32)も「簡単な試合はない。1つのアウトを取ることが簡単でないことも教え子たちから教わってきた。スタンドの3年生も含めて乗り越えられたと思います」と、粘り勝った選手をたたえた。初回に適時打を放ち、佐々木の応援歌「男の勲章」を受け継いだ吉田は「良い試合でなく、勝つことに意味がある」。4回には死球を挟んだ4連打で大量点も奪った。新生大船渡は、勝利への執着心で、成長の波に乗る。【鎌田直秀】

○…佐々木朗希投手は姿を現さなかったが、今夏の主役だった3年生が三塁側応援席から声援を送った。試合用ユニホームを着用した前主将の千葉宗幸内野手は「生き生きと楽しそうに野球をしていてうらやましい。夏の大会が昔のよう」と懐かしんだ。「甲子園には行きたかったけれど、自分の中では満足している。後輩たちには、もちろん全部勝ってほしいが、この秋が最後くらいの気持ちで大会を過ごしてほしい」と夢を託した。U18W杯から帰国した佐々木とも学校で数日間を過ごし「いるのが不思議な感じ」と笑った。