<高校野球愛知大会>◇25日◇5回戦

 愛知大会でノーシードから3年ぶりの甲子園を目指す愛工大名電が5回戦で散った。優勝候補の東邦に5-12(7回コールド)と2年連続のコールド負け。2月に交通事故で亡くなった部員の徳浪康介さんに甲子園出場の報告はできなかった。

 鋭い打球がセンターの頭を越えた瞬間、名電の特別な夏が終わりを告げた。6点ビハインドの7回2死満塁。カウント1-3からマウンドの谷口雄也外野手(3年)が投じた直球がはじき返された。本塁カバーに走り込んだ背番号8は、その場でうずくまり涙を流した。遺影をベンチに入れ、左そでに喪章をつけて臨んだ今大会。天国へ甲子園出場を報告することはできなかった。

 最後にマウンドに立っていたのは高校通算44本のプロ注目外野手だった。序盤から先発上之園が制球を乱し、3回に緊急登板。1度は中堅に戻ったが、5回に4番手板谷が2連続四球を与え、再びマウンドへ向かった。「ピッチャーは中学生のとき以来です。準備はしていたつもりです…」。右後ろのポケットに徳浪康介さんの写真を忍ばせていた。カバンには「康思園」(こうしえん)と縫い込んだお守りを付けていた。

 「康介のためにも甲子園にいきたかった」。試合後は遺影を抱えて「ごめんな、ごめんな」と何度も謝った。だが、優勝候補の東邦を相手にバットでは4打数3安打と本領発揮。今大会5試合の打撃成績は14打数8安打、打率5割7分1厘の成績を残した。

 プロ入りの条件となる志望届も「出すつもりでいます」とはっきりと答えた。徳浪さんもプロを目指していたという。夢半ばでこの世を去った仲間のためにも。もう1つの夢をあきらめるわけにはいかない。【桝井聡】