今季限りで現役引退する日本ハム石井裕也投手(37)が、引退登板でガチンコ勝負を制した。西武22回戦(札幌ドーム)の7回2死二塁の場面で今季初登板。西武のリーグ制覇がかかる試合で高校の後輩、秋山と真剣勝負を繰り広げ、左飛に打ち取った。先天性の難聴を乗り越え、プロ野球で14年間、第一線で走り抜けた「サイレントK」が、格好良く最後のけじめをつけた。

最後のマウンドも、しびれる場面だった。石井裕の出番は、3点リードの7回2死二塁。相手は母校・横浜商工(現横浜創学館)の後輩で日本最高峰の安打製造機の西武秋山だった。「大事な場面でしたけど、起用してくれた栗山監督、コーチのみなさんに感謝したいです」。白星でのリーグ制覇を目指す後輩との真剣勝負が引退登板となった。

初球は141キロの直球で見逃し。2、3球目は宝刀スライダーを外角低めに配してボール。4球目は140キロ直球でファウルを誘い、勝負球の5球目も141キロ真っすぐで左飛に打ち取った。「高校の後輩である秋山選手は本当に良い選手。対戦できて良かったです。ありがとう」。貴重な中継ぎ左腕として中日、横浜(現DeNA)、日本ハムのブルペンを支えてきた左腕にとって、これ以上ない有終の美だった。

6年前、1度は引退が頭をよぎった。12年シーズンの開幕直後、原因不明のめまいに襲われた。体を動かすことすら禁止された。「野球ができない。もう野球は辞めようと思った」。支えてくれたのは10年オフに結婚した妻綾子さんだ。

石井裕 食事面も気を使ってもらったし、コミュニケーションもいっぱい取ってくれた。聴力が下がってしまって声が聞こえず、分からない時はメモを書いてもらったりもした。医者からテレビもダメ、野球も見てはダメと言われたけど、積極的に外へ連れて行ってくれた。買い物だったり、房総半島に旅行に連れていってもらったり。だんだん、練習ができるようになって気持ちも戻った。本当に奥さんのおかげです。

苦しい時もずっと寄り添ってくれた綾子さんが見守る前で、最後の勇姿を格好良く決めた。試合後のセレモニーでは「14年間、ずっと幸せでした。本当にありがとうございました」と、感謝の思いを吐露して涙した。マウンド上では4度の胴上げ。「ありがたい。感謝です」。最後は笑顔で、ユニホームを脱いだ。【木下大輔】