こんな日だから「言葉」で、伝えたい。6月の第3日曜日は父の日。プロ野球界で花開こうと奮闘する若手選手が、父から幼少期に送られた厳しくとも愛のある言葉を回想した。さらに、日頃は面と向かって言いづらい父への感謝の言葉も披露した。

<楽天黒川史陽>

「逃げんな!」。2年目の楽天黒川史陽内野手(20)は、父洋行さん(45)からの“恐怖”の言葉が耳に残る。「野球人生で一番怖かったです」。それは、小学校低学年の頃だった。

ある日、単身赴任から奈良の自宅へいったん戻った父が、少年野球の試合を見に来てくれた。その試合、左打ちの黒川は内角球を怖がり右足がバッターボックスから外れるほど腰を引いてしまった。帰宅すると、父は血相を変えていた。「特別練習や!」。家の近所のグラウンドへ連れ出された。

「びびんな!」「踏み込んでこい!」。大声とともに、打席に立つ自身すれすれへ剛速球を投げ込まれた。「めっちゃ思い切り投げてきたんで、何すんねんって。散歩してたおばちゃんも(大声に)びびってたと思います」。涙は止まらなかった。どれだけ練習したかも、思い出せない。

父は上宮で主将として93年にセンバツを優勝。同大、社会人でプレーし現在はバッティングセンターを経営する。史陽は3兄弟の次男。「いつも上から(ものを)言われていたので、絶対に抜かしてやろうと思ってやってました」と叱咤(しった)激励を力に変え、父がかなわなかったプロの扉を開いた。「あれから全然ボールは怖くなくなりました。立ち向かっていかないと結果は出せないので」。剛速球にこもった思いは、確実に届いていた。

中学時代に「試合を見に来ないでくれ」とけんかもした。それでも、プロになった今も各地へ足を運んで、見守ってくれる父へ、言葉を贈るなら-。

黒川 お父さんが単身赴任から帰ってきて、すごく家族一体、円満でやれています。…でも、お母さんの方が偉大かな。たぶんお父さんがお母さんに迷惑かけてます。

照れ笑いは隠せない。くさい言葉は、まだちょっぴり恥ずかしい。【桑原幹久】

◆黒川史陽(くろかわ・ふみや)2001年(平13)4月17日、奈良県生まれ。智弁和歌山で1年春から5季連続甲子園出場。19年ドラフト2位で楽天に入団。20年9月4日オリックス戦で初出場し、初打席で犠飛を放ち初打点。今年6月4日広島戦で観戦する父の前でプロ初本塁打。182センチ、86キロ。右投げ左打ち。