そりゃそうだよな、という話だ。阪神がセ・リーグ3球団とオープン戦5試合を戦った1週間。4番佐藤輝明は内角高め直球を数えるほどしか予習させてもらえなかった。

3月8、9日は広島2連戦、11、12日は中日2連戦、13日は巨人戦。計20打席で投じられた76球のうち、インハイに来たボールは5、6球あったかどうか。ルーキーイヤーに執拗(しつよう)に攻められ続けた苦手コースの克服を開幕前に手助けするほど、ライバル球団は甘くはない。

ただ、そんな駆け引きの中でもシーズンに向けた「探り」を感じた高めのボール球は数個あった。たとえば9日広島戦の8回裏、中崎翔太が初球から2球連続で投じた高めの直球。13日巨人戦の2回、1ボール2ストライクからドラフト3位右腕の赤星優志がインハイに投げきった150キロの直球だ。

昨季終盤であれば強引に振りに行っていたかもしれないこの3球を、佐藤輝明は難なく見逃した。そんな姿を甲子園の記者席から眺めているうちに、昨季限りで縦じまユニホームを脱いだ優良助っ人の笑顔が脳裏によみがえってきた。

虎の未来を背負う大砲はプロ1年目だった21年、プロ野球新人最多記録を更新するシーズン173三振を喫した。夏場以降は絶不調に苦しみ、59打席連続無安打でNPB野手ワースト記録まで更新した。

これでもかというぐらいに内角高めで空振りさせられた昨季終盤。わらにもすがる思いで助言を請うた相手が、常日頃から頻繁に野球談議を交わしていたジェリー・サンズだった。

「どういう意識で高めのボールに対応しているのかを教えてほしい」

怪物ルーキーから助けを求められた兄貴分は「そんなの振らなければいいだけだろ?」と冗談めかして笑わせた後、シンプルな考え方を授けたそうだ。

「真ん中の高さに意識を置いてボールを待つと、高めも低めも追いかけてしまうだろ? だったら最初から高めいっぱいに目付をして、それ以上は振らなければいいんだよ」

信頼を寄せていた先輩からの金言を、後輩が忘れているはずがない。

昨秋、佐藤輝明は退団が決まったサンズからこんな言葉をかけられている。

「何かあったら、いつでも連絡してきてくれ」

所属先が決まっていない今は、現役続行を目指して米国でトレーニングを継続中だという。きっと動向をチェックしてくれているであろう仲間を心配させるわけにはいかない。

おそらくインハイ攻めは開幕直後からまた本格化する。進化した姿を太平洋の向こう側に届けられるだろうか。まもなくシーズンイン。本番の幕開けに注目している。【佐井陽介】